ツアー客に天岩戸神社の案内板前で説明する日高葵さん=高千穂町(訪う提供)
名勝・高千穂峡を抱え、日向神話が息づく宮崎県高千穂町。推計で年間約130万人が訪れる県内随一の観光地で、訪日外国人のツアー受け入れを手掛ける会社が「訪(おとな)う」だ。
最高経営責任者(CEO)で、ラオスでコンサルティング会社勤務の経験もある日高葵さん(36)が、2017年に宮崎市で設立。国の重要無形民俗文化財「高千穂の夜神楽」に感銘を受け、20年に同町へと本社を移した。
これまで、受け入れたのは10カ国150人以上。客層は英語圏中心で、本物志向が強く訪日経験2回目以上の人が主流だ。日高さんは「旅の感動は目的地までの距離に比例して期待値が高い」と誘客の狙いを語る。
醍醐味(だいごみ)は、限りなく本番に近い夜神楽を体験できる独自のプログラムだ。舞台となる民家を訪れる前、酒屋に立ち寄って参加者に供物の焼酎2本縛りを購入してもらうのも、一晩限りの住民「一夜氏子」としての作法の一つ。「暮らしに根付き、脈々とバトンをつないできた神事芸能。ショーではない地域文化を体験してもらう」と思いを込める。
人手に限りがある中山間地域。日高さんは、地域での女性初の神楽保存会員として、地域文化を次代につなぐ貴重なプレーヤーの一人だ。地域への負担をできる限り減らすことが持続可能性を高めると信じる。「できないこと、やらないことを整理する。その上で暮らしの中の祈りを五感を使って体感する、唯一無二の旅を提案していきたい」と見据えた。