野宿生活者らに支援物資を届ける準備をする支援団体のメンバー=6月19日、鹿児島市
鹿児島県知事選告示2日前の6月23日、鹿児島市内の公園で、70代の男性が木陰に敷いた段ボールに座っていた。「こちらは○○後援会です」。遠くを走る車から、立候補予定者を紹介するアナウンスが聞こえた。
「名前を連呼するばかりで政策が見えない。金のない人間のことを真剣に考える候補はいないだろうね」。男性はたばこをくゆらせながら、そう話した。
霧島市出身。料理人を目指し、高校中退後、大阪と和歌山で約5年間修業した。その後、友人に誘われ建設業の世界へ。東京タワーのペンキ塗り、防波堤の改修、阪神大震災の復旧工事…。期間限定で全国を渡り歩いた。
雇い主側から寝泊まりする場所を用意されなければ、野宿するようになったのが約30年前。10年近く鹿児島市にいるという。
なじみの業者が短期の工事や農作業の人手を求め、公園などに車で迎えに来ていた。新型コロナウイルスが流行した春以降は、仕事が激減した。現場で「3密」回避が求められるようになったからと言い、一緒に働いた人たちのことを気にかける。「簡易宿泊所やカラオケボックスから日雇いの仕事に通っている人もいた。路上生活になっていなくても、自分と似たような境遇の人はいっぱいいる。途方に暮れていなければいいが」
自身は持病の腰痛が悪化し、働けない状態が続いている。体を動かさなくなったことで体力が落ち、感染した場合の重症化を恐れる。生活費は1日250円以下。マスクを買う余裕はない。「年齢も年齢だし、お手上げの状態」とこぼした。
野宿生活者を支援しているNPO法人「かごしまホームレス生活者支えあう会」から、月に一度、食料の提供を受けている。生活保護の申請を提案され、悩んでいる。「申請して住所が確定すれば、10万円(特別定額給付金)も受け取れる。追い詰められて自殺だけはしたくないから」
住民票がなく、選挙とは無縁。就寝中や服を干しているときに窃盗被害に遭い、暴行を受けたこともある。治安の向上を切に願っているが、「政治には期待できない」と言う。
「政治家は当選することと、私腹を肥やすことしか考えていない。これでは治安もよくならない。西郷隆盛のように、自らを顧みず、世に尽くす真の人が出てきてほしい」