7月12日投開票の県知事選が始まった。コロナ下で県民は政治に何を望んでいるのか。声を聞いた。

LGBT

生きづらさ目を向けて
2020/07/08 10:45
延期となった性別適合手術の書類を前に、県知事選への思いを語る三沼漣さん=鹿児島市与次郎1丁目
延期となった性別適合手術の書類を前に、県知事選への思いを語る三沼漣さん=鹿児島市与次郎1丁目
 「LGBTへの差別につながるのでは…。ネガティブなイメージが一度付くと、偏見は根強く残る」。心と体の性が一致しないトランスジェンダーの三沼漣さん(21)=活動名、霧島市=は、ニューハーフショーが売りの鹿児島市のパブで、新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生したことに心を痛める。感染者の精神的な負担も心配でならない。
 三沼さんは今春、新たな人生を歩み出す計画だった。タイで性別適合手術を受けて戸籍を男性に変更し、あこがれのデザイン関係の仕事を志す-。パスポート取得から病院の予約、診断書の手はずまで済ませた直後、コロナの影響で渡航できなくなった。
 シルバーヘアに片耳ピアス、黒いマスク-。中学生の頃からホルモン治療を続け、一見アイドルのような見た目は男。ただ、戸籍上は女性で、仕事の面接を受けるとなると、いちいち説明が必要となる。手術を受けるには長期休暇も必要。何としても就職活動の前に「嫌悪感がある体」から脱却したかった。だが、いつ海外で手術が可能になるのか見通せない。国内は病院によって技術の差が大きく、年単位で順番待ちのところもあるという。
 物心が付いた頃から、スカートや髪を結われるのが嫌で、仮面ライダーやレンジャーごっこを好んだ。「自分は女じゃない。男」。家族や身近な友人はすんなり受け止めてくれた。高校受験を前に、戸籍名は変更したが、気持ちとは裏腹に胸が膨らみ、体つきが変わる思春期は苦しくて仕方なかった。背が伸び、声変わりする男友達がうらやましかった。
 LGBTなど性的少数者にとって、コロナは感染への恐れだけではない。「もし感染したら、パートナーは濃厚接触者。カミングアウトしなければならないのか…」「パートナーの容体が悪化した場合、連絡が取れるのか…」。当事者には、二重三重の不安がのしかかる。
 三沼さんが県知事選で一票を託すのは初めて。ジェンダー問題に対する各候補者の考えを判断材料にするつもりだ。茨城県や大阪府をはじめ、全国で導入が広がるパートナーシップ制度への見解にも注目する。
 「性的マイノリティーは、自分の体のことだけでも乗り越えるべき壁が多い。中には、周囲の理解が得られずに自死を選ぶ人もいる」と現状を憂う。
 「男尊女卑が残る鹿児島は、性別による固定観念も根強い。人によっては生きづらい環境にも目を向ける人が県のトップになってほしい」。

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