アーティストがステージ入口に残した無数のステッカーを見詰めるSRファクトリーの岩下善博取締役=6月末、鹿児島市東千石町
新型コロナウイルスの感染拡大でライブハウスの苦境が続いている。再開を見通せなかったり、限定オープンにとどまったりする中、鹿児島市天文館でクラスター(集団感染)が7月2日確認された。休業要請の解除で、かすかな光が見え始めていただけに関係者の苦悩は深い。
同市天文館にあるキャパルボホール。アーティストたちがライブを繰り広げたステージは静まりかえったままだ。運営するSRファクトリーの岩下善博専務取締役(61)は「音楽文化を支え、途絶えさせないよう尽くしてきた自負がある分、悪者扱いされるとつらい」と胸の内を明かす。
ライブハウスへの風当たりが強まったのは2月中旬、大阪でクラスターが発生してから。北海道や東京でも感染が相次いだ。国の緊急事態宣言が鹿児島など39県で解除された翌日の5月15日、県はライブハウスなど4業種に限って延長していた休業要請を解除。ようやく通常営業への道が開けたかに見えた。
ところが、飲食と従業員のショーが提供されるショーパブでクラスターが発生。ライブハウスは主に出演者にステージと音響設備を貸し出す場で、営業形態は異なるものの“再起”は遠のいた。
キャパルボは4月1日から営業を自粛。7月8日には、7月末までスタジオと事務所を閉じる決断を下した。計4カ月に及ぶ長期休業となる。
岩下取締役は「感染者を出したくない。今後を考えて決めた」と説明する。県知事選に向けては、ロックなどの大衆音楽に目を向けた助成制度を要望。「ライブハウスのような場がなくなれば音楽好きの若者は都会に行く。音楽が育つ土壌を守って」と訴える。
「悪いのはウイルスなのに」。ステージがあるダイニングバー・ウィッキーズハウス(鹿児島市)を営む尾堂友彦店長(56)は音楽やライブに対するイメージ悪化を懸念する。
3月から5月末までステージを封鎖し、飲食提供のみの時短営業にした。その後、観客を25人にまで制限したライブも実施。要望があれば予防対策を万全にしライブを行いたい考えだが、見通しは立っていない。
クラスターが分かり天文館から再び人けが消えた。助成金は底をつき借金をしながらの経営が続く。「一律の判断でなく現場を見て適切に対応できるリーダーが望ましい。街を助けて」と願った。