運転期限が迫る九州電力川内原発。テロ対策施設の完成が遅れ、現在停止している=6月、薩摩川内市
九州電力川内原発(薩摩川内市)は1号機が1984年7月、2号機が85年11月に営業運転を始めた。原発の運転期間は法で原則40年と定め、それぞれ4年後、5年後に期限を迎える。ただし、原子力規制委員会が認めれば、最長20年延長できる。
「多くの人の生活を支えている原発は地元に欠かせない」。同市宮里町の田畑より子さん(71)は運転延長を望む。約13カ月ごとの定期検査では2500人の作業員が3カ月滞在し、経済効果は8億円以上とされる。市には国の原発関連交付金も入り、2020年度当初予算に15億5000万円を計上した。
一方、いちき串木野市の宮路巌さん(82)は「不安を感じながら我慢してきた。もう止めてほしい」と訴える。南日本新聞が4月に実施した県民世論調査では、延長に反対が53.8%、賛成が38.0%。15.8ポイントの差が付いている。
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九電は川内1、2号機の運転延長を表明していないが、延長申請が確実視されている。東京電力福島第1原発事故を踏まえた新規制基準に沿い、4千数百億円の安全対策費を投じてきたからだ。費用対効果から関係者は「延長せず廃炉にすることはあり得ない」と口をそろえる。
2月に川内原発を視察した規制委の更田豊志委員長は、40年を超える運転について「技術的に大きな懸念はない」と発言。厳格に審査することで安全性は担保できるとの考えを示した。
だが、規制委が認可したとしても、直ちに運転延長とはならない。資源エネルギー庁原子力立地・核燃料サイクル産業課は「原発事業には地元の理解が欠かせない」と強調する。
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川内原発は2015年、新規制基準施行後、全国で最初に再稼働した。「立地自治体などの理解と協力を得るように取り組む」と定めた国のエネルギー基本計画に沿う形で、県知事と薩摩川内市長が再稼働に同意を表明した。
エネルギー基本計画に運転延長の条件の記載はない。鍵を握るのは九電と県、薩摩川内市が結ぶ「安全協定」だ。
現行の安全協定は、立地自治体との事前協議の対象を「原子炉施設の増設、変更」などと規定しており、県と市の担当者は「運転延長は事前協議の対象ではない」と話す。ただ、安全協定には「定めのない事項は協議して定める」との項目もあり、運転延長を対象に加えることは可能となっている。
「原発と自治体」の著書がある金井利之・東京大大学院教授(自治体行政学)は「20年の運転延長は原発の新設と同じくらい大きな変更であり、協定に基づき事前協議が必要なのは当然」と指摘する。「次期知事が独断しないよう、候補者が徹底的に論戦し、県民も議論を深める必要がある。事業者が延長を申請する前に地元が民意を示すべきだ」と提言した。