6月25日告示された鹿児島県知事選は戦後最多の7人が立候補し、現職、元職、新人がそれぞれ目指す県政の姿を訴えている。7月12日の投票に向け、県政の課題を考える。

(4)医師不足

偏在際立ち圏外頼みも
2020/07/03 10:02
入院中の高齢者らがマッサージを受ける曽於医師会立病院のリハビリ室=曽於市大隅町月野
入院中の高齢者らがマッサージを受ける曽於医師会立病院のリハビリ室=曽於市大隅町月野
 厚生労働省は2019年、地域ごとに医師の需給を示した新しい目安「医師偏在指標」を公表した。医療ニーズや人口動態、地理的条件などを考慮し、客観的に比較できるとされる。
 数値が高いほど充足とされ、全国平均は239.8。鹿児島県全体は234.1と平均に近いが、2次医療圏(入院医療を提供する地域区分)別では地域格差が鮮明だ。県内9医療圏のうち平均を上回るのは鹿児島(327.5)のみ。出水(149.3)、曽於(131.3)、熊毛(126.7)の3医療圏は、高低による3区分の下位「医師少数区域」となった。

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 「医師も診療科もすべて足りない」。手塚善久・曽於医師会長(64)=志布志市=はため息をつく。曽於医療圏は曽於、志布志、大崎の2市1町。人口8万1000人に対し医師は75人。入院病床があるのは17医療機関で、産婦人科や心臓外科はない。一刻を争う脳卒中や心筋梗塞の患者は都城市や鹿屋市へ運ばれる。大隅曽於地区消防組合が18年に救急搬送した4111人中、約半数が圏外に収容された。
 自ら鹿屋や都城の病院へ通う住民も多い。だが、高齢者からは「若いうちはともかく、近くに頼れる病院がないと住み続けられない」との声も聞かれる。
 「地元で入院したいと患者に泣かれた。つらかった」。曽於医師会立病院の才原哲史院長(68)は、患者を圏外に送り出す苦悩を打ち明けた。地域医療の中核だが、整形外科など診療科は限られる。医師は40~70代の8人。日々の診療に加え、週1度の当直は負担が大きい。
 加えて感染症指定医療機関でもある。新型コロナウイルスなどの感染症の診療や検査は医療圏内での対応が原則で、他の病気のように圏外を頼れない。医師らは神経をとがらせる。

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 偏在解消を目指す県は20年度、指標を元に医師確保計画と外来医療計画を開始した。確保計画は23年までに曽於に3人、熊毛に5人増の目標を設けた。外来計画は、医療圏ごとに診療科の需要状況を示し、ニーズが高い地域へ開業希望者の誘導を図る。県保健医療福祉課の伊地知芳浩課長は「機会をとらえて周知に努めたい」と話す。だが、いずれも具体策は示されておらず、実効性は不透明だ。
 地域では鹿児島大学医学部地域枠への期待が高い。修学資金援助を受けた医師が離島やへき地に9年間勤務する義務を負う制度で06年に始まった。これまで222人が援助を受け、現在29人が各地に配属されている。専門医資格の取得を目指す医師が多いため、曽於医師会立病院は地域枠医師が勤務しながら資格取得できるよう、総合診療科のプログラムを準備。配属を希望するが、一度も受け入れたことはない。才原院長は「不足しているからこそ、地域枠医師に来てほしいのだが」と話した。

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