6月25日告示された鹿児島県知事選は戦後最多の7人が立候補し、現職、元職、新人がそれぞれ目指す県政の姿を訴えている。7月12日の投票に向け、県政の課題を考える。

(5)人材流出

地場企業の魅力発信を
2020/07/04 09:45
掲示板で就職情報をチェックする学生たち=6月下旬、鹿児島市の鹿児島大学
掲示板で就職情報をチェックする学生たち=6月下旬、鹿児島市の鹿児島大学
 鹿児島工業高校(鹿児島市)は2019年度、18年連続で就職内定率100%を達成した。265人の就職者のうち、県内企業への就職は55人(16%)にとどまり、177人(51%)の生徒は県外へと旅立った。
 なぜ、生徒は県外企業を選ぶのか。進路指導部主任の山下澄雄教諭(54)は「生徒も保護者も名前が通った企業を選ぶ。県内にもいい企業があるが、知名度がないので選ばれにくい」と話す。交通事情の変化もある。「九州新幹線の全線開業で帰省がしやすくなり、県外就職へのハードルも下がったのでは」と山下教諭はみている。
 文部科学省の調査によると、20年3月の鹿児島県の高卒の就職者数は3968人。県外就職割合は44.8%で全国1位の“人材供給県”となっている。
 県の調査では、県外就職を決めた理由は「福利厚生や働く環境が充実している」「給料が高い」「県外で暮らしてみたい」が上位を占めた。
■ □ ■

 鹿児島大学の男子学生(21)は今年、県外の大手製造メーカーから内定をもらった。県内企業も検討しインターンシップ(就業体験)もしたが、200万円もの年収差があることが分かり、県外就職を決めた。「県内では希望する仕事内容の企業があまりなかった。都会に出て経験を積みたい」と明かす。
 鹿大は県外出身者が多いこともあり、20年3月卒業者の県内就職率は36%にとどまる。
 「進学や就職を機に県外に出たいと考える若者は多い」と枚田(ひらた)邦宏キャリア形成支援センター長(62)は説明する。その上で、「行政が住みたいと思える地域の魅力づくりをすることが必要。県内企業も新卒者だけでなくUターン者らに目を向け中途採用する仕組みづくりが必要では」と提言する。
■ □ ■

 県外への人材流出が続く中、県内では慢性的な人手不足にあえぐ業界もある。建設業もその一つだ。新卒者が集まりにくく、離職率が高い。
 「仕事はあるが、人がいない」。米盛建設(鹿児島市)は事態を解消するため、3年前から外国人の受け入れを始めた。きつい仕事もこなしてくれるため、会社に欠かせない存在になっている。今ではベトナム人を中心に技能実習生や専門的な知識を持つ高度人材ら17人が在籍する。ただ、今年も新しい人材を採用したものの、新型コロナウイルスの影響で入国できず、先行きが見通せない。
 同社の森祐介総務部長(58)は「建設業界は外国人なしでは回せない」としつつ「資格取得などのために日本人の採用は不可欠」と語る。「地元の会社を詳しく知ってもらうことでマッチングもうまくいき、離職も防げる。県主催の合同説明会の回数を増やすなどして県内企業をもっとPRする機会をつくってもらいたい」と訴えた。

日間ランキング >