6月25日告示された鹿児島県知事選は戦後最多の7人が立候補し、現職、元職、新人がそれぞれ目指す県政の姿を訴えている。7月12日の投票に向け、県政の課題を考える。

(7)観光

安心与えるリーダーを
2020/07/06 09:50
JR肥薩線嘉例川駅で観光客の案内を想定して話し合うバスガイドら=霧島市隼人
JR肥薩線嘉例川駅で観光客の案内を想定して話し合うバスガイドら=霧島市隼人
 ピピー、ピピー。6月30日午後、霧島市隼人のJR嘉例川駅近くの駐車場に、大型観光バスを誘導する笛の音が響いた。停車後降りてきたのは、県内最古の木造駅舎目当ての観光客ではなく、貸し切りバス会社・南州交通(日置市)の社員ら13人だ。
 新型コロナウイルス感染拡大に伴う移動自粛の緩和を受け、今後の需要に備えて同社が企画した安全研修の一こま。2日かけて鹿児島市や枕崎市を回り、車内換気や安全走行の手順などを確認した。
 コロナ拡大以降、バス約30台の稼働はほとんどない。ガイドの新福みどりさんは「仕事がない不安と、さみしさが交錯する」と吐露。小園正輝社長(45)は「今は準備を整え、次を待つしかない」。
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 鹿児島の観光業は近年順調に推移してきた。国際線の増便やNHK大河ドラマの放映効果を背景に、18年の延べ宿泊者数は11年以降で最多の886万4320人を数えた。だがコロナで一転。宿泊施設や旅行会社が相次いで休業に追い込まれるなど、経験のない苦境に直面している。
 「外国人客の獲得に自治体が知恵を競っていた1年前とは、隔世の感さえある」と話すのは、霧島市観光協会の徳重克彦会長(54)=徳重製菓とらや社長。県の基幹産業に位置づけられる観光業は、飲食業や農林水産業にも影響するすそ野の広い産業だ。
 「このままでは街全体が倒れる」と危機感に駆られた徳重会長は何度も市当局に働きかけ、霧島市地区宿泊者に1人2000円を助成するキャンペーン事業を実現させた。「コロナのような百年に一度の有事では、果敢に財政出動する手腕と胆力が行政には求められている」とみる。
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 鹿児島県は5月、観光支援策「ディスカバー鹿児島キャンペーン」を打ち出した。県内宿泊する県民に1人1万円を補助する助成が目玉だ。ホテルや旅館に資金を流す早期支援が狙いで、「1万円のインパクトは大きい」と宿泊事業者から歓迎される一方、「恩恵を受けられるのは一部の高級施設に限られる」という批判もある。
 指宿シーサイドホテル(指宿市)の有村純頼社長(47)は、同キャンペーンに感謝しつつ「選挙後の追加施策では、ホテル・旅館だけでなく、土産物店や旅行・バス会社など観光インフラを含む業界全体に、広く長く経済効果が続く支援をお願いしたい」と話す。
 今回のコロナでは、旅の基本である「安心安全」が揺さぶられた。旅館「月見荘」(同市)の渡瀬祥晃社長(44)は、積極的にデータを公表して行動基準を示す大阪府知事や北海道知事を引き合いに「次のリーダーには、旅行者の安心につながる安全の基準を事業者や業界全体に示してくれる姿が必要では」と話した。

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