6月25日告示された鹿児島県知事選は戦後最多の7人が立候補し、現職、元職、新人がそれぞれ目指す県政の姿を訴えている。7月12日の投票に向け、県政の課題を考える。

(8)馬毛島

地元割れ県対応に不満
2020/07/07 10:27
FCLPの移転候補地となっている馬毛島=2018年7月23日、西之表市(本社小型無人機で撮影)
FCLPの移転候補地となっている馬毛島=2018年7月23日、西之表市(本社小型無人機で撮影)
 日米安全保障協議委員会(2プラス2)共同文書に、西之表市の馬毛島が、米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)の移転候補地として明記されて9年が過ぎた。防衛省がFCLPの前提となる自衛隊施設建設に向けて取得した島の土地は8割を超え、計画は進む。鹿児島県知事は「地元の動向を注視する」として、これまで賛否を明らかにしておらず、地元には主体性のない対応に不満がくすぶる。
 八板俊輔市長は、移転計画に反対は明言していないが、別の利活用法があると主張。市議会も「地元の頭越し」の計画は容認できないと意見書を可決している。一方、同市内には「静かな島は財産」「歓迎 自衛隊・FCLP」など賛否双方の看板が立つ。反対派市民らは定期的に学習会を開き、FCLPの騒音被害など実態把握に努める。推進派は市民団体を発足させ、地元説明会の早期開催などを市に要請した。それぞれ署名を集めるなど両派の活動は活発化している。

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 防衛省は7月中旬から島東岸で海上ボーリング調査を計画した。調査には、国有財産法に基づく県の許可が必要で、申請には漁業権を持つ漁協の同意や首長の意見書が求められる。だが、地元漁協側は、これまでの防衛省の説明では「漁場の影響は測れない」として、同意を見送り、調査のめどは立っていない。
 一方、島の大半を所有していたタストン・エアポート(東京)の違法開発疑いでは、県の対応が後手に回った感がぬぐえない。
 森林法に基づく林地開発を許可した県は、事実確認のため3回目の現地調査に向け、同社と調整を続けているが実現していない。国有地には同法は適用されず、防衛省が8割以上の土地を取得している状況では、「違法」かどうかの判断はうやむやとなる可能性がある。

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 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題や、撤回となった地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の秋田県と山口県への配置計画では、それぞれの地元知事は、「反対」を表明したり、積極的に国に説明を求めたりするなど、リーダシップを発揮し、国に注文を付けた。
 西之表市の漁業者らでつくる「馬毛島の漁業を守る会」の塰河実さん(70)は、違法性が疑われる馬毛島の林地開発を「県の明らかな不作為。新知事は主体性を持って移転問題に取り組み、反対してほしい」と要望する。
 「馬毛島の自衛隊・FCLP訓練を支援する市民の会」の杉為昭事務局長(53)は「移転計画では県の権限によるところが少なくない。賛否を含めた、具体的な各候補者の考えを知りたい」と話す。
 鹿児島大学学術研究院の宇那木正寛教授(行政法)は「県は国と市町村との調整役でもある。住民、行政を交えたリスクコミュニケーションの機会を設定するなど、積極的な働きかけが重要になる」と指摘した。

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