地域ぐるみで農地集積が進む柊野区=さつま町柊野
さつま町柊野は、紫尾山系の山々に囲まれた水田地帯だ。5年前に比べ、人口は31人減の157人、高齢化率は6.6ポイント増の56.1%と、人口減、高齢化が進む。6年前に就農した東條貞美さん(53)は「今後も高齢化は進み、担い手も簡単には確保できないだろう」と懸念する。
高齢になっても農業を続けるには、機械による省力化が欠かせない。そのためには段差があり形状がいびつな農地を整理し、トラクターなど大型機械が入れるようにする必要がある。住民は話し合いを重ね、区画整理されていない農地6ヘクタールについて、国の農地中間管理機構関連農地整備事業を活用することを決めた。
この事業は、対象農地全てを農地中間管理機構に貸し出す-などの要件をクリアすると全額国費でまかなえる。県内で初めて採択され、2020年度中に着工予定だ。別府秀吉館長(70)は「年を取っても安心して耕作できる」と喜ぶ。
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担い手への農地の集積、集約化を図る農地中間管理事業は2014年度にスタート。県内は県農地中間管理機構が、農地を貸したい所有者から借り、利用したい農家に転貸している。転貸面積は今年5月に延べ1万ヘクタールを超え、九州トップの実績を誇る。
ただ、好条件で集積しやすい地域での転貸が一気に進んだ後は、伸びが鈍化した。機構は優良地域の活用事例集発行や、各地の取り組みの様子を動画投稿サイトで視聴できるようにするなどし、啓発に取り組む。
機構の藤田幸二常務(63)は、地域内での貸し出しがある程度まとまれば、借り手が利用しやすくなるとし「今は担い手がいて大丈夫な状況でも、将来に備え地域で話し合って」と語る。
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県農村振興課によると、機構や市町村などを通じた担い手への集積率は19年度末で42.5%。20年度末に50%という目標に向け、中島博也課長(57)は「機構、市町村と連携し、集落に出向くなど、今後の農地利用について合意形成してもらえるよう働きかけていく」と話す。
「新型コロナウイルスで内食の比率が増え、食べ物や農業、地方暮らしに関心を持つ人が増えている」と話すのは、九州経済研究所(鹿児島市)経済調査部の福留一郎部長(54)。中山間地は日本の原風景が残り、あこがれる都会の住民も少なくないという。
「コロナ収束後、行政が空き家を宿泊施設に改装し、農村のインターネット環境整備の支援をすれば、農繁期に手伝いに来たり、加工、販売に協力する人も増える。移住のハードルも下がるのでは」と助言する。