東京一極集中の是正と人口減少克服を目指す政府の「地方創生」がスタートして今年で10年になる。しかし出生数は減り続け、東京一極集中の構図は変わらない。
石破茂首相は所信表明演説で「地方こそ成長の主役」と述べ、自治体が実施する地域活性化事業の財源となる交付金を倍増させると表明した。先日、鹿児島市であった衆院選候補者応援街頭演説でも「地方を守る」と力を込めた。
地方重視には共感するが、実現への具体策は乏しく「ばらまき」との批判もある。必要なのは、今ある危機に対処しながらどう地域を守り再生させていくかの確かな処方箋と実行力だ。各党は有権者が判断材料にできるよう論戦を深めてほしい。
地方創生は2014年、第2次安倍政権が打ち出した。民間団体が「消滅可能性がある」とした全国896自治体の公表をきっかけに、対策として「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を決定。政府機関・企業の移転や地方大学活性化などを通じて都市部の住民を呼び込むとした。
石破氏が地方創生に熱意を持つのは初代担当相として戦略策定を主導した経緯もあるのだろう。だが十分な成果が出ているとは言い難い。中央省庁の地方移転は文化庁の京都移転などに限られ進学や就職で上京した若者が定着する傾向は続く。23年は東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)で転入者が転出者を10万人超上回った。鹿児島など40道府県は人口が流出する「転出超過」だった。
政府は今年6月に10年間の成果や課題を検証した報告書を公表した。地方への移住者増加など一定の成果はあったとしつつ、「大きな流れを変えるには至らず、厳しい状況にある」と総括。うまくいかなかった要因の分析には踏み込んでいない。
石破首相は自ら本部長となり、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置した。年末までに基本的考え方をまとめる方針だ。これまでの政策を十分に検証せずに予算を倍増させても、効果は期待できない。
共同通信が、全国の都道府県知事や市区町村長に今夏行ったアンケートでは、地方創生の成果を「不十分」とする回答は約7割に上った。地域間での移住者獲得競争など「自治体単独での対策には限界があった」との声が多く、ノウハウ不足に悩む地域も目立つ。地方任せにしてきた国の姿勢と同時に、地方の自律性をどう培っていくかが問われよう。
東京一極集中が進む背景には家庭や職場の男女格差が地方に根強いという事情も指摘される。賃金を含め格差を解消し、女性が働きやすい環境整備を進める政策も欠かせない。