社説

[ライドシェア]交通空白地解消なるか

2025年10月26日 付

 住民や観光客の移動手段が十分でない「交通空白地」解消のため、国土交通省は地方を対象に一般ドライバーが有償で客を運ぶ「日本版ライドシェア」を拡充する。運行日時や供給車両の上限を増やせるよう規制緩和し、年内に全都道府県での普及を目指す。 
 高齢者をはじめ運転ができない交通弱者にとって、移動手段の確保は買い物や通院をはじめ、日々の暮らしに関わる大きな問題だ。住民の利便性向上につながるなら、安心安全策の確立を大前提に取り組む必要がある。
 国土交通省は目安として、半径1キロ以内にバスや鉄道の駅がなく、タクシーを呼んでも配車に30分以上要する地域を「交通空白地」としている。
 ライドシェアは2通りある。自治体やNPOが実施主体となる「公共ライドシェア」と、一般ドライバー参入を警戒するタクシー業界に配慮する形でできた「日本版ライドシェア」だ。
 今回、国が普及拡大を図るのは後者で、今年4月に始まったばかりだ。タクシー事業者が実施主体となってドライバー募集や安全管理、事故対応も担っている。「原則金・土曜日の午後4時台から翌日午前5時台まで」「区域内タクシー台数の5%を上限」という条件でスタートしたが、参入業者は広がらなかった。そこで9月、事業者の申し出があれば曜日や時間帯を広げ、上限台数も倍に引き上げられる規制緩和策を公表した。
 日本版は、配車アプリを使って車両を呼び出し、発着地と運賃を事前に確定した上でキャッシュレスで支払う仕組みになっている。地方ではアプリが普及していない場合があるため、国交省は電話での配車や現金支払いも可とする指針も作成した。地域の事情に沿った柔軟な対応で、二の足を踏む事業者の参入を促したいのだろう。
 国交省はさらに、国や自治体、交通事業者に加え、IT事業者などが参加する組織の年内設置も予定する。配車システムやデータ管理に強い企業の力を借りて、ライドシェア参入の壁になっている点を解決していく。
 県内では日本版ライドシェアとして鹿屋、伊佐、鹿児島市の6事業者の参入が許可された。先日申請した鹿児島市のタクシーグループによると、1カ月の予約およそ5万件のうち1万件を運転手不足のために断っている。何らかの手を打ちたいと考えて当然だ。
 日本版については、タクシー事業者以外の業種にも参入を認めるよう全面解禁を求める声がある。利用者の安全にかかわるだけに拙速は禁物だ。
 地方の細る公共交通を補う切り札になる可能性もあるとはいえ、ライドシェアだけに頼るわけにはいかない。空白地を増やさないよう、今走っているバスや鉄道を維持する方策にも引き続き知恵を絞らねばならない。

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