社説

[山川に大型客船]波及効果の拡大に期待

2025年11月10日 付

 指宿市の山川漁港に来年4月、商船三井クルーズの新船が寄港する。3万トン級の船舶が接岸できる岸壁がないため、乗客は沖合で小型船に乗り換えて上陸する。
 山川がクルーズ船を迎えるのは初めてで、地元関係者は観光振興につながればと期待している。鹿児島市の鹿児島港に偏りがちな寄港地が各地に分散し、クルーズ船の経済効果が県内全域に広がるきっかけになればいい。
 山川はカツオの街として知られている。観光客でにぎわう指宿の温泉街から約6キロと近い割に、足を運ぶ人は少ない。人口減が進む中、地元の山川町漁協は海や漁村の資源を生かした集客力向上を模索する。今年3月、地域活性化を図る水産庁の「海業」事業の推進地区に指定された。
 6月ごろ、船舶代理店から寄港を打診された。コロナ禍が落ち着き人の往来も活発になっている。クルーズ船が持つインバウンド(訪日客)需要を地域に取り込めればと協力を決意した。鮫島祐藏組合長は「生産量日本一のカツオ本枯れ節や山川の魅力を知ってもらういい機会」と話す。
 組合長らによると、山川漁港が外国のカツオ船が直接入港できる「無線検疫港」となった2013年以降、地元にはいつかクルーズ船を誘致したいとの思いがあった。好機を十分に生かしたい。
 船旅に慣れた富裕客は知名度の高い観光地以外の場所で、その土地の特徴に触れる機会を望んでいるとされる。こうした需要に応える観光ルートを探っていた船会社にも好都合だっただろう。クルーズ船の多くは鹿児島港のマリンポートかごしまか北ふ頭に入る。鹿児島港から移動に往復3~4時間かかる南薩地域は、滞在時間が短い乗船客が回遊するのは難しかった。
 山川漁港を拠点にして、乗船客は運がよければカツオの水揚げを間近で見られるし、特産のかつお節の工場見学、海鮮や地元の食を楽しめる。足を延ばせば南九州市知覧の武家屋敷巡り、指宿市での砂蒸し体験、指宿市とフェリーで結ぶ南大隅町の佐多岬散策までと、クルーズ観光の可能性は広がる。
 上陸する客は数百人規模になる。山川町漁協や南薩と大隅半島の4市2町を中心に、ツアー設計をはじめ受け皿づくりが進められる。関係者は「港町の日常の暮らしぶりは観光客には『非日常』の風景となるのでは」と指摘する。無理のない範囲で長く続けていける「もてなし」の形を探ればいい。
 24年の県内へのクルーズ船寄港は9月末で119回を数え、最多だった19年の156回を上回るペースで推移する。山川漁港のような地方の港が主役となる機会が増えて、鹿児島の多様な魅力を伝える場となれば、観光立県・鹿児島にとっても心強い。

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