社説

[新石破内閣発足]政策本位の熟議追求を

2025年11月12日 付

 衆院選を受けた特別国会が召集され、石破茂首相は第103代首相に選出された。1994年の羽田内閣以来の少数与党となる。
 自民党の派閥裏金事件がテーマとなった衆院選で問われたのは、政治への信頼回復だ。国民の審判は自民党による「1強」政治に終止符を打った。与野党の議席が伯仲する構図は、再び政治に緊張感をもたらしたといえる。
 「数の力」を背景に国会での説明責任や合意形成を軽んじたこれまでの国会運営は通用しない。野党と真摯(しんし)に向き合う姿勢で国会を正常化し、政治不信を払拭する一歩とすべきだ。熟議を通じて幅広い合意を追求してほしい。
 岸田文雄前首相は裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の実態解明に後ろ向きだったことで低支持率から抜け出せず、再選を断念した。新総裁に選ばれた石破氏は、衆院解散前の国会論戦の重要性を公言していながら戦後最短で解散に踏み切った。「裏金候補」の公認問題など選挙戦では、総裁選での発言からの後退が目立った。
 「党内野党」と目された石破氏への期待は、失望に変わった。自民への逆風は、第2次安倍政権以降の12年間の政治体質への不信と見なしていい。
 2012年の衆院選で旧民主党から政権を奪還して以降、自民は衆参両院選に連勝、1強体制を固めた。首相官邸のトップダウンの意思決定が繰り返され「安倍1強」とも呼ばれた。集団的自衛権の行使を一部容認する憲法解釈の変更という戦後の安全保障政策の大転換は、時の政権の一存で可能になる閣議決定で踏み切った。安全保障法制も十分な審議を経ずに最後は与党が数の力で採決を強行した。
 岸田首相時代は反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に象徴される防衛力の抜本強化を進め、防衛費を飛躍的に増やす方針を決定した。東京電力福島第1原発事故を経験したにもかかわらず原発回帰にかじを切った。いずれも開かれた国民的議論は乏しかった。
 衆院選投票日直前の共同通信の調査によると、望ましい選挙結果は「与野党伯仲」が圧倒的に多かった。政治とカネの問題など、自民政治のおごりをただしたいとの民意が浮かぶ。
 新内閣には抜本的な政治改革が求められている。石破氏はきのう裏金事件に関係した議員に向けて衆院政治倫理審査会への出席を促した。旧統一教会問題も解明してほしい。
 石破首相は、野党と政策ごとに連携する「部分連合」を構築したい考えだ。国民民主党が要求する所得税「103万円の壁」引き上げを巡る政策協議が注目されているが、税収減や社会保障制度との関連を広く視野に入れて検討する必要がある。政権維持のための数合わせに終始しない政策本位の議論を求めたい。

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