少子化に歯止めをかけるため、社会構造の思い切った変革が必要との主張は理解できる。だが、性別を理由に進学や結婚、出産といった人生の選択肢を狭めるような発想はあまりにも短絡的であり、断じて容認できない。
日本保守党の百田尚樹代表が自身のユーチューブ番組で少子化問題を議論した際、「女性は18歳から大学に行かさない」「25歳を超えて独身の場合は、生涯結婚できない法律にする」と語った。「30超えたら子宮摘出」との発言もあった。
極論であることは自覚した上での主張だろう。「これはええ言うてるんちゃうで」と3度繰り返し、さらに「むちゃくちゃな小説家のSFと考えて」と前置きした上での物言いだった。主に小説家としての百田氏のファンや、党の支持者らが視聴する番組という気安さもあったのかもしれない。
そんないわば身内の視聴者も、あぜんとしたのではないだろうか。配信の翌々日の街頭演説で「やってはいけないこととして例を挙げたが、例えがきつすぎた」と発言を撤回、謝罪した。だが、女性の人格軽視や倫理観の欠如が疑われるのは当然だろう。
日本保守党は10月の衆院選で3議席を獲得した。比例全11ブロックの総得票数の割合が2%に達し、公選法が規定する政党要件を満たした。
そんな国政政党の代表である以上、批判を恐れず本音を口にする文化人の脱線と看過するわけにはいかない。インターネット上での突出した発言で注目を浴びて党勢を拡大する狙いなら、政治への志が低すぎる。
少子化対策は国の将来を左右する重要な政策課題である。鹿児島県内でも各自治体がさまざまな施策を打ってはいるが、減少のスピードを緩める有効策は見いだせずにいるのが現状だ。
目指すべきは、若い世代が結婚を望めば結婚できる、出産を望めば出産できる、そして安心して育てられる環境を整備するための複合的な施策にほかならない。それは結婚や出産をしない人生の選択の尊重とも決して矛盾しないはずだ。
にもかかわらず、女性は大学など行かずに早く結婚相手を見つけ、20代で最初の子どもを産むように政治が誘導しようという発想は時代錯誤も甚だしい。国が「産めよ増やせよ」と唱導して兵力と労働力の強化を図った軍国主義時代を思わせる。少子化の原因が女性にあるという認識も安直だ。
社会的性差の解消に向けて社会は一歩ずつ前進している。日本保守党は「日本の国体を守り、伝統文化を継承しながら、日本独自の叡智を現代に活かして協和社会をつくる」と綱領にうたう。伝統文化の継承も協和社会の実現も、性別を問わず幅広い人材の力の結集が不可欠なことを再認識したい。