社説

[県警本部長交代]不祥事幕引き許されず

2025年11月15日 付

 鹿児島県警のトップである本部長が交代した。警察官逮捕など不祥事が相次ぎ、転出した前本部長の犯罪隠蔽(いんぺい)疑惑が残されたままだ。県警の信頼回復に向けて、前任、新任の両氏は説明を尽くす責任がある。
 本部長を2年余り務めた野川明輝氏は今月5日付で警察庁へ戻り、13日付で自動車安全運転センター(東京)総務部長に就いた。新本部長の岩瀬聡氏は同庁交通規制課長から着任した。
 県警は本部長交代発表の翌日、2020~22年に認知した詐欺など3事件について、被害者への相談対応や事件処理が不適切だったとして延べ38人を処分した。トップが代わり、異例の大量処分をしたとしても、一連の不祥事に幕引きすることは許されない。
 中でも、野川氏が枕崎署員による盗撮事件を隠蔽しようとしたとされる疑惑の真相解明は大きな課題だ。
 職務上知り得た秘密を漏らしたとして国家公務員法違反容疑で逮捕、起訴された県警の前生活安全部長が裁判手続きの中で訴えた。野川氏は「隠蔽を意図した指示は一切ない」などと一貫して否定。警察庁も「隠蔽の指示はなかった」と結論付けた。
 それでも疑惑が払拭されないのは、野川氏と警察庁による否定が客観的な証拠を伴わず、説得力に欠けるからだ。盗撮事件の捜査では、野川氏の指示が誤解を招いて捜査が中断したり、捜査対象者を含む全署員を対象に盗撮などをテーマにした教養(研修)が行われたり、不自然な点が少なくない。
 野川氏は離任会見で「今後はより説得力のある方法で事実が明らかになると期待する。裁判を見守りたい」と述べた。転出したとはいえ、展開次第では今は未設置の百条委員会を含む県議会や、年明け以降とみられる前生活安全部長の公判で証言を求められる可能性がある。真摯(しんし)に対応してほしい。
 新任の岩瀬氏は、県警を県民が頼れる組織に立て直すことが急務だ。不祥事の再発防止策を着実に進めるとともに、県議会や記者会見で取り組み状況を丁寧に説明する姿勢が欠かせない。
 8月に公表した再発防止策は、進ちょく状況を管理する改革推進委員会の設置などを盛り込んだが、「第三者の視点を欠く」との指摘が根強い。岩瀬氏は就任会見で「外の意見が大変重要。中だけの取り組みではないと示していく」と述べた。トップ交代を機に、組織の内外から意見をくみ上げやすい仕組みづくりに注力すべきだ。
 県警は38人の処分発表の際、記者会見を拒み、カメラ撮影なしの記者レクチャーにとどめた。こうした態度では、信頼回復の決意を疑わざるを得ない。不祥事公表は、幹部がカメラの前で県民に率直に説明する会見を原則にしてはどうか。県警が変わり始めたと客観的に示す一助になるだろう。

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