社説

[危険運転見直し]常識に照らした処罰を

2025年11月24日 付

 悪質事故で大切な人を奪われた遺族が捜査機関の認定に不満を訴え、より量刑の重い「危険運転」の適用を求めるケースが全国で相次ぐ。
 どんな場合に危険運転致死傷罪を適用するか議論してきた法務省の有識者検討会は、このほど示した報告書案で「飲酒」や「高速度」の処罰要件に数値基準を設ける方針を打ち出した。
 自動車運転処罰法の改正が視野に入る。常識に照らした厳正な処罰を可能にする見直しが必要だろう。
 危険運転の罪は2001年、刑法に新設された。東名高速道路で飲酒運転のトラックに追突され、女児2人が死亡した事故などがきっかけだ。14年には、交通事故規定を刑法から独立させた自動車運転処罰法に組み込まれた。
 危険運転は、飲酒や高速度、赤信号無視、あおり行為など複数の類型が処罰対象となる。悪質事故を「不注意」ではなく「故意」で起こしたと捉える考えが軸だ。
 ただ適用要件を定める条文が抽象的なのが問題だ。飲酒の対象は「正常な運転が困難な状態」、高速度は「進行の制御が困難」とする。法定刑の上限は懲役20年。事故の大半で適用される「過失運転」の懲役7年との軽重の差は明らかである。
 法定速度を大幅に超過する悪質な態様でも、捜査機関の判断次第で過失と扱われるケースがあるなど、遺族からは疑問の声が上がっていた。
 大分市で21年、時速194キロの車が交差点で対向の右折車と衝突した死亡事故のように、いったんは過失として起訴されながら、厳罰を求める署名提出を受けて危険運転に変更されるケースも後を絶たない。
 安定した法の運用を確保するべきだ。具体的な数値基準を導入する検討会の方向性は、妥当と言っていい。
 飲酒については一律に要件を満たす数値基準の設定を提案している。血中アルコール濃度が候補という。高速度の場合は、現行とは別の新類型を設け、一定の速度以上を対象とすることが考えられるとした。「最高速度の2倍や1.5倍」との意見もある。国民にとって分かりやすいルール作りを目指してほしい。
 ただ「見える化」への疑念を持つ専門家もいる。道路状況や運転技能といった個別の要素に大きく左右される速度の客観的な数値設定は可能なのか。アルコール濃度や速度が数値を上回ったと証明する立証技術は確立されているのか。丁寧な議論を続けていかねばならない。
 同時に、痛ましい事故を起こさないための啓発活動に一層力を入れるべきだ。鹿児島県内でも交通事故が頻発している。年末に向けて慌ただしくなる中、一人一人のドライバーが細心の注意と思いやりの運転を心掛けたい。

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