社説

[レバノン停戦]ガザ紛争収束の契機に

2025年11月29日 付

 イスラエルとレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの戦闘を巡り、60日間の停戦合意が成立した。
 イスラエルはパレスチナ自治区ガザの戦闘との二正面作戦で負担が増大していた。ヒズボラは幹部を相次ぎ殺害されて組織の立て直しを迫られており、思惑が一致したと言える。双方が合意を順守し、恒久的な停戦を実現してほしい。
 レバノンの戦闘は、ガザ紛争でイスラエルと戦うイスラム組織ハマスへの連帯から中東各地に波及した戦線の一つだ。合意を機に関係国が戦火拡大に歯止めをかけ、ガザの紛争終結につながるよう期待したい。
 イスラエルとヒズボラは昨年10月以降、レバノン国境を挟んで交戦し、イスラエル軍は今年9月末にレバノン南部に地上侵攻していた。レバノン側は3800人以上が死亡、100万人超の避難民が発生した。イスラエル側は死者が百数十人、避難生活を続ける北部住民の不満も高まっていた。停戦は妥当な判断だ。
 停戦期間中、イスラエル軍はレバノン南部から、ヒズボラは国境から約30キロ離れたリタニ川以北へそれぞれ退く。撤収エリアを緩衝地帯として機能させレバノン軍と国連レバノン暫定軍が監視、米国やフランスも停戦維持に向け側面支援する。
 ヒズボラは、レバノン南部のパレスチナ解放機構(PLO)掃討を掲げ地上侵攻したイスラエル軍への抵抗運動として1982年、イラン革命防衛隊の指導で創設、武装闘争を続けてきた。昨年、ハマスに呼応して攻撃を仕掛けたが、30年以上組織を率いたナスララ師を殺害され、多くの戦闘員が所持するポケットベルの爆発で死傷するなど力の差を見せつけられた。
 後ろ盾のイランも、イスラエルと直接、戦火を交える事態に発展した。今年4月に、イスラエルが在シリアのイラン大使館を空爆し、ヒズボラ支援の中心だったイラン革命防衛隊の将官を殺害したのがきっかけだ。以来、攻撃の応酬となっていた。
 今回の合意について、中東各国も歓迎を表明。イランはガザについても圧力を加えるよう、国際社会に求めた。
 ただイスラエルは、ガザでハマスの掃討作戦に兵力を投入する見通しだ。ガザは破壊し尽くされ、死者は4万4000人以上、飢餓状態も報告される。再び戦闘が激化すれば人道危機は一層悪化する。もはやどう終えるかはイスラエル次第だろう。今後はハマスが誘拐したイスラエル市民ら人質の救出と解放交渉に集中すべきだ。
 ガザを巡っては、国際刑事裁判所(ICC)がイスラエルのネタニヤフ首相らに戦争犯罪容疑で逮捕状を出した。ネタニヤフ氏は国際社会の声を聞き、戦闘終結へ一歩を踏み出す時だ。

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