社説

[プラ条約先送り]汚染対策遅れ許されず

2025年12月6日 付

 軽くて丈夫、しかも安い。プラスチックは身近なあらゆる製品に使われている素材だが、自然に分解されにくく環境を汚染する。
 プラごみ汚染を減らすための国際条約の策定交渉が頓挫したのは、極めて残念だ。プラ生産段階からの規制をかけるかどうかを巡り、参加国の溝が埋まらなかった。
 だが対策に遅れは許されない。国を超えた地球規模の課題との認識に立って、諦めずに取り組むべきだ。現世代が便利さ、快適さを享受するばかりでは、後の世代から無責任との批判は避けられまい。
 条約作りについては国連環境総会で2022年3月に合意した。政府間交渉委員会の設置を決め、24年末に策定作業を終えるとの期限を設けた。
 最初の交渉委は22年に南米ウルグアイで開かれたが、当初から難航。プラ生産量の削減目標などを入れた法的拘束力のある強力な条約にするべきだとの欧州連合(EU)や小島しょ国と、原料である石油の輸出量減少に直結する中東産油国が対立し、実質的な文案交渉に入ったのは今春の第4回会合だったという。
 11月25日に韓国・釜山で始まった5回目の会合が最後となるはずだったが案の定、空転した。産油国側は「(条約は)あくまで廃棄物対策に絞るべきだ」と譲らなかった。生産から使用、廃棄、リサイクルまで全ての段階を通じた対策を目指す国々からすれば受け入れるわけにはいかなかっただろう。
 結局、12月1日の会期末までに条約案を完成させられず、交渉は持ち越しとなった。温暖化対策と同様、利害が対立する国同士の合意を図る難しさがここでも突き付けられた。
 会合は「失敗」とも見えるが、産油国などの主張に沿った効果の薄い案で合意しなかったのはよかったともいえる。今後の交渉の基礎になる文案には、生産規制や数値目標を定めるとの選択肢も残された。次の交渉日程を早急に決め、実効性ある条約案をまとめる必要がある。
 環境省の資料によると、日本の人口1人当たりのプラ容器包装廃棄量は米国に次いで多い。減少傾向にあるとはいえプラごみの輸出大国でもある。
 一方で、海岸線の長い鹿児島県は漂着ごみの多さに悩まされている。日本近海は川や海を漂ううちに小さくなった「マイクロプラスチック(微小プラ)」の汚染が進んでいて、世界平均の27倍との報告もある中、将来にわたる生態系や人体への影響を心配しないわけにはいかない。
 国内でのプラごみ排出抑制を一層強化すると同時に、代替品などの技術や途上国支援のための資金力を生かし、世界のプラごみ対策をリードする役目を日本は果たすべきだ。

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