米国のトランプ次期大統領の就任まで20日で1カ月となる。各国首脳、大手企業の「トランプ詣で」が相次いでいる。
日本からは故安倍晋三元首相の妻昭恵さんやソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、フロリダ州のトランプ氏の私邸を訪れた。会談予定が立たない石破茂首相を差し置く形だ。
トランプ氏側が少数与党で基盤が安定しない石破氏の足元を見て、外交の主導権を握ろうとしているのは間違いない。石破政権は「米国第一」を掲げる次期大統領におもねることなく、信頼関係を築いていくよう期待する。
石破首相は11月の南米訪問に合わせて会談を模索。トランプ氏側から「法律上の制約」で就任前はどの国の首相とも面会しない、といったん断られた経緯がある。
昭恵さんはトランプ氏の私邸で夫妻と夕食を共にした。安倍元首相は2016年大統領選でトランプ氏が勝利した後、他国の首脳に先駆けてニューヨークで会談した。第1次政権ではゴルフを楽しむなどして友情を深めたとされる。昭恵さんとの面会は安倍夫妻との親密ぶりを強調した、石破氏への揺さぶりにも映る。
トランプ氏は経済優先の姿勢も際立たせた。大統領選後初の記者会見には、共和党のイメージカラーである赤いネクタイを着けた孫氏が同席。約15兆円の対米投資と10万人の雇用創出を約束してみせた。
首脳外交は事実上始まっている。北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長やカナダのトルドー首相らと私邸で会談。今月には訪問先のフランスでマクロン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領との3者会談に臨んだ。石破政権の存在感の低さに結び付ける声は出かねない。
しかし第1次政権時「蜜月」を強調した安倍政権下で、日本側の一方的な譲歩が目立った日米貿易協定は締結された。米国製防衛装備品の「爆買い」を迫られたとの指摘もある。
圧力を駆使して各国に譲歩を迫るのがトランプ流だ。どんな出方をしてくるか、情報収集を図り綿密に備えておくべきだろう。
石破首相は臨時国会の所信表明演説で、トランプ政権発足後も日米安全保障体制が外交の「基軸」と述べた。米と日本にそれぞれの国益があるのは当然だとした上で「だからこそ率直に意見を交わし、自由で開かれたインド太平洋の実現に資する」とも強調した。
首脳同士の個人的関係が重要なのは間違いないが、国民からはうかがい知れないトップ会談による密室外交に両国の関係を委ねるわけにはいかない。追従ではなく、いかに主体性のある対米外交を展開できるかが石破氏に問われている。