ホンダと日産自動車が経営統合に向けた本格的な協議に入った。日産と企業連合を組む三菱自動車も年明けに合流するかどうか判断する。
持ち株会社を設立し、それぞれが傘下に入る方向だ。新会社はホンダが取締役の過半数を選ぶなど主導権を握り、2026年8月の発足を目指す。
3社合わせた2023年の世界販売台数は800万台を超える。統合すればトヨタグループ、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループに次ぐ世界3位の巨大連合になる。
自動車産業は日本経済を支える基幹産業であり、「ものづくり」の自信の源である。世界を舞台に技術と生産力、販売力を競い合ってきたビッグネームの統合は歴史的な岐路といえよう。経営の窮地を乗り切る苦肉の策にとどまらず、持続可能な相乗効果を創出できる戦略を見いだしてほしい。
世界の自動車業界は今、100年に1度の大変革期を迎えている。技術的な競争領域が電気自動車(EV)に移行したからだ。米国のテスラや中国の比亜迪(BYD)などEVの新興メーカーが市場を席巻し、エンジン車で世界トップの技術を磨いてきた日本勢は軒並み苦戦している。
モーターや電池だけでなく、自動運転などに使う車載ソフトの性能が商品力を左右する。ソフト開発には膨大な費用がかかり、メーカー単独の資本力で対抗するのは厳しい状況だ。販売不振で業績が急速に悪化している日産だけでなく、「自前主義」で成長してきたホンダも抜本的な経営改革が迫られていた。
台湾の電子機器受託生産大手の鴻海(ホンハイ)精密工業が日産に買収を提案しているとの情報もあった。この買収を阻止すると同時に、統合によって開発への巨額投資を可能とする経営規模を得る戦略が浮上したとの見方が一般的だ。
日産は人員削減や生産能力縮小などの経営立て直しが必須となろう。製造部品の共通化を進めれば、両社延べ3万5000社に及ぶサプライチェーン(供給網)に再編や淘汰(とうた)が広がる可能性もある。情報公開と丁寧な説明を尽くし、従業員や下請けの混乱を最小限にとどめなければならない。
日産は戦前から続く名門企業で、堅実な製品作りで定評がある。ホンダは戦後、本田宗一郎氏が町工場から創業し、モータースポーツを「走る実験室」と呼んで新しい技術への挑戦を重ねてきた独立志向の強いメーカーだ。企業風土の全く異なるメーカーが結束できるか、疑問視する声もある。
確かなのは、三菱を加えた3社それぞれに世界に通用するブランド力があることだ。この信頼と実績を損なわず、同時にかつてない変革に踏み切って技術獲得と高コスト体質脱却を成功させなければ、統合の意味はない。