社説

[2024年回顧]暮らしの安心が揺らぐ

2025年12月29日 付

 元日の能登半島地震に始まり、豪雨や猛暑と2024年は、自然が猛威をふるった。交流サイト(SNS)を使った凶悪事件も相次ぎ、主食の米の高騰など物価高は続く。
 命と暮らしが脅かされ、安心が揺らいだ。住まいや食といった日常のかけがえのなさに気付く1年となった。生活の苦しさや経済への不満はまた、既存の政治を揺さぶった。
 石川県能登地方を震源に、最大震度7を観測した地震は深い爪痕を残した。能登半島は9月に記録的豪雨にも見舞われ、避難生活が長期化。地震の影響で心身に負荷がかかり亡くなった「災害関連死」の認定が、建物倒壊などによる直接死を上回った。過疎地域や半島の孤立への備え、被災時のライフラインの復旧といった課題は、地形の似た鹿児島県民にとっても切実だ。
 今夏(6~8月)は日本の平均気温が平年を1.76度上回り、2年連続で「最も暑い夏」になった。5~9月に熱中症で救急搬送された人は過去最多となり、半数以上は65歳以上の高齢者だった。働き方や行事、日ごろの行動や習慣も、暑さに合わせた見直しを迫られている。
 首都圏で発生した連続強盗事件は、SNSを通じてつながる「匿名・流動型犯罪グループ(匿流)」による犯行とみられる。困窮した若者らが「闇バイト」の誘いで民家に押し入るなど、治安の悪化を肌で感じさせた。
 円安や世界的な値上げの流れは収束の気配がない。24年春闘で連合傘下の労働組合は33年ぶりの賃上げ5%台を達成。最低賃金も前年から51円増の1055円(全国平均の時給)となったが、物価高に対応し切れていない。25年春闘で賃金や物価が安定した軌道に乗せられるか。下請け業者への価格転嫁や適正取引を進める取り組みが一層重要になる。
 コメを巡っては「令和のコメ騒動」が起きた。昨夏の猛暑による23年米の品薄に加え、8月に気象庁が初めて発表した「南海トラフ地震臨時情報」で消費者不安が増大、買い占めが起こり店頭から消えた。一過性の問題ととらえてはならない。農家の所得補償にも消費者への安定供給にも効果的な農政が問われている。
 世界的な選挙イヤーとなり、欧米など各地で与党に逆風が吹いた。10月27日の衆院選は、自民党の派閥裏金事件の逆風がやまず、自民・公明両党が大敗した。「政治とカネ」に対する国民の厳しい目が浮き彫りになった。
 地球温暖化対策や海外で続く紛争といった世界の情勢と日々の生活は結びついていると改めて実感する機会が多かった。日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞も含め、日本が国際社会の中でどう役割を果たしていくかを問いかけた。

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