社説

[鹿児島この1年]目立つ課題の積み残し

2025年12月31日 付

 県民の安心安全を守る警察行政への信頼回復をはじめ新総合体育館、サッカースタジアム建設など多くの課題が積み残しのまま年末を迎えた。場当たり的対応や問題の先送りに終始すれば県民の失望や不信はさらに高まろう。
 鹿児島県警は情報漏えいや不同意わいせつ事件など不祥事が続発、4月以降の関係者逮捕が4人に上る異常事態となった。全国の注目を集めたのは、情報漏えい容疑による前生活安全部長の逮捕、起訴だ。前部長は、元巡査部長の盗撮事件を「野川明輝本部長が隠蔽(いんぺい)しようとした」と告発した。
 情報漏えいではなく、公益通報だったのではないか。逮捕に至る捜査は適法だったのか。警察庁は「隠蔽の指示はなかった」と早々に結論付け、転出した野川氏も一貫して否定しているが疑惑は払拭されていない。
 県民が警察に不信を抱くという重大事態にもかかわらず、県議会の判断には疑問が残る。不祥事に関する調査特別委員会(百条委員会)設置を求める決議案は、最大会派の自民党県議団などが反対し否決された。県民の代弁者として、警察行政の立て直しに積極的に役割を果たすことを求めたい。
 二転三転してきた新体育館構想も争点となった7月の知事選は、鹿児島港本港区のドルフィンポート跡地への建設を進める現職の塩田康一知事が当選した。県が示す事業費は最大313億円。しかし、9月の入札は資材や労務費の高騰を背景に不調になった。県は規模や機能変更を困難とするが場所や規模には異論も根強い。適切な情報開示と丁寧な説明が不可欠だ。
 鹿児島市のサッカースタジアム構想も整備地が決まらない。2月までに4カ所を断念。下鶴隆央市長は11月に再選され、「オール鹿児島」での整備に意欲を見せるが進展は見られない。昨年の県有地の北ふとう案表明、その後の断念の経緯から県との連携や調整能力不足が露呈した。移転方針のサンロイヤルホテル跡地が浮上しているが不透明だ。トップの本気度が問われる。
 自然災害への備えも道半ばだ。宮崎県の日向灘で8月、マグニチュード7.1の地震が発生。気象庁は巨大地震が起こる可能性が平常時に比べて高まっているとし、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。県内では大崎町で震度5強を観測し家屋倒壊などの被害が出た。全国平均を下回る県の耐震化率向上や高齢者施設など避難態勢の構築を急ぐべきだ。
 スポーツは、パリ五輪で鹿屋体育大学卒の杉野正尭さんが体操男子団体で金、鹿児島南高校卒の高山莉加さんが柔道混合団体で銀、尾崎世梨さんがフェンシング女子サーブル団体で銅メダルなど県勢が旋風(せんぷう)を吹かせた。
 来年は、閉そく感が漂いつつある状況を好転させる風が待たれる。

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