社説

[首相年頭会見]問われている熟議の力

2025年1月8日 付

 石破茂首相は、現職首相が新春の恒例行事にしている三重県伊勢市の伊勢神宮参拝後に記者会見した。国会運営について合意形成には野党も「これまで以上に責任を共有することが求められている」と強調した。
 昨年の衆院選で自民、公明両党は少数与党に転落し、国会での与野党勢力は伯仲している。2012年衆院選で民主党から政権を奪還して以降、単独過半数を維持してきた自民にとっては難局に違いない。だが、国民の目に見える場で与野党が議論を深めるのは、民主主義の本来の姿である。
 「多様な国民の声を反映した真摯(しんし)な政策協議によって、よりよい成案を得る」という首相の発言には、野党も異論はないはずだ。与野党ともに対話の姿勢と熟議の力が問われている。
 首相が会見で改めて提起したのが、衆院選挙制度の検証だ。1994年に導入された現行の小選挙区比例代表並立制について、「党派を超えた検証」を呼びかけた。小選挙区で敗れた候補が比例代表で復活当選できる現行制度に、民意との乖離(かいり)を指摘する与野党の声があるのは事実だ。
 首相は就任前から度々この問題に言及し、選挙区ごとの定数を複数とし、有権者がその中から複数の候補者に投票できる「中選挙区連記制」を持論としてきた。民主主義の根幹にかかわる重要な論点なのは間違いない。
 ただ、与野党は3月末までに企業・団体献金の是非について結論を得ることで合意している。立憲民主党の野田佳彦代表は「政治資金の問題に決着を付ける前に、次の話をするのは不見識だ」と反発した。
 自民が衆院選で大敗した最大の要因となった「政治とカネ」の問題とどう向き合うか、首相には厳しい国民の目が注がれている。そんな中で新たな課題を掲げるのは、論点のすり替えとみられても仕方がない。
 首相は会見で企業・団体献金について「問題の本質は、民主主義のコストは誰が負担するべきなのかということ」と述べた。ならば、まず「コスト」の内訳を政治家自ら説明すべきだ。何にカネを使っているのか不透明なまま問題の本質に迫れるとは思えない。
 24日召集予定の通常国会では、過去最大115兆円超に上る25年度予算案の審議が最大の焦点となろう。野党からの減額要求は避けられまい。政策と適正な予算規模について、真正面から議論してほしい。
 安倍政権から菅、岸田両政権へと続いた「1強多弱」体制が崩壊した今、野党の真価も問われている。自らが背負う民意を反映した政策を与党にぶつけるのは当然だが、予算の裏付けや丁寧な制度設計を欠いたままの主張では、夏の参院選で厳しい審判が待つことを忘れてはならない。

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