社説

[クルーズ船分析]波及拡大へ役立てたい

2025年1月12日 付

 鹿児島県は鹿児島港に入港するクルーズ船の経済波及効果を分析し、乗船客の飲食や買い物、交通費といった支出額が1人当たり約2万2000円だったことを12月の県議会で明らかにした。
 クルーズ船は朝入港して夜には出港するため、地元にとって乗船客は「日帰り客」だ。落とす額は宿泊客に及ばないものの、低い額とも言えない。継続的な分析で消費動向を探り、観光戦略に生かす必要がある。
 2023年10、11月に鹿児島市のマリンポートかごしまで1600人にアンケートして集計した。期間中に寄港した17隻のうち、船の大きさのほか、富裕層向けかカジュアル船なのかのクラス、主な乗船客の国籍などを考慮して5種類の9隻を対象にした。
 調査を受託したシンクタンクは、結果を基に23年に寄港した82隻の乗船客による直接効果を21億円と算出。土産品のような関連産業の生産増加や雇用創出を加えれば、地元への経済波及効果は33億円に上ると推計した。
 オプショナルツアーの費用や、乗船客以外の乗員による消費・購買支出、港湾利用に伴う係船料は含まれていない。県は県議会定例会で「地域への波及はさらに大きい」と答弁した。確かに大型船の場合、船員やその他のスタッフが1000人を超えるケースがある。寄港中に下船し、港近くの店舗で買い物や食事をする姿は珍しくない。
 23年の県観光統計によると、宿泊や飲食、交通費をはじめ旅行者が旅先で使った観光消費額は2269億円に上った。うち訪日外国人が1人1回の旅行で使う消費額単価は7万6000円。延べ宿泊数などから平均2泊ほどしているため、1日当たり単価は3万8000円になる。宿泊費をいくらと仮定するかにもよるが、クルーズ客の2万2000円は決して低い額ではない。
 県は同様の調査を続けてデータを取り、どの地域からの客が多く、どんな食や土産品を好むかといった船ごとの傾向と、それを踏まえた対策を講じることで、地域への波及効果を広げたい意向だ。
 塩田康一知事が掲げる観光での「稼ぐ力」を向上させるためにも、相手を知ろうとする努力は重要だろう。
 コロナ後は買い物目当てのアジア人のツアー客でなく、欧米の個人客が増えている。移動、観光、食事への需要が細分化され、受け入れる側のより柔軟な対応が欠かせなくなっている。タクシー不足や渋滞緩和策は待ったなしだ。
 繰り返し鹿児島を訪れ、地元で消費してもらうためにも、乗船客のニーズや変化を敏感に捉えることが大切だ。継続的な調査データを県の施策に生かすのは当然のこととして、分析結果を迅速に公開して民間の受け入れ態勢充実に役立てたい。

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