社説

[南海トラフ情報]備えの点検を促された

2025年1月15日 付

 巨大地震の可能性が格段に増したわけではなさそうだ。ただし、警戒心を忘れるわけにはいかない。
 宮崎県で最大震度5弱を観測する地震があり、気象庁は南海トラフ地震臨時情報を出した上で調査した。その結果、「巨大地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったとは考えられない」と判断して調査を終了した。
 ここで言う「平常時」とは、30年以内に70~80%の確率でマグニチュード(M)8~9級の巨大地震が起きると予想されている状況を意味する。鹿児島県を含む日本列島のほとんどの太平洋沿岸部が抱えるリスクを理解し、備えの点検を促されたと受け止めたい。
 地震は13日午後9時19分ごろ発生した。震源地は日向灘、震源の深さは約36キロで、地震の規模はM6.6と推定される。鹿児島県内では鹿児島市や霧島市、鹿屋市など12市町で震度4を記録し、九州新幹線は地震発生後から約15分間、運転を見合わせた。
 南海トラフ巨大地震は駿河湾から日向灘沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)に沿って発生すると予測される。この想定震源域でM6.8以上の地震が起きたり、通常と異なる地殻変動を観測したりした場合にまず臨時情報が「調査中」として発表される。
 その後、有識者の評価検討会が開かれ、地震の規模がM7以上と評価されるなど巨大地震発生の可能性が高まったと判断されれば「巨大地震注意」、より危険性が高いと「巨大地震警戒」の情報が出る。今回はこうした基準に達しないと判断された。
 気象庁が南海トラフ地震臨時情報を発表するのは2度目だ。昨年8月、日向灘でM7.1の地震が発生し、鹿児島県内でも最大震度5強を観測した。気象庁は広範囲で強い揺れの可能性が高まったとして「巨大地震注意」を呼びかけた。東海道新幹線が減速運転したり、津波を警戒して一部海水浴場が閉鎖されたりする影響があった。
 この時と比べれば、発生から約2時間25分後に調査の終了を発表した今回は、生活への影響は限定的だろう。
 ただ、油断は禁物だ。昨年12月から今月8日、想定震源域では最大震度3以上またはM3.5以上の地震が計7回発生している。評価検討会は10日の定例会で「大規模地震の可能性が平常より高まるような特段の変化は観測されていない」としていたが、3日後に発生したのが今回の最大震度5弱である。
 地震予測の精度向上に向けた専門家の努力に疑いはないが、現時点では限界があるのも事実だろう。南海トラフに直結しなくても、突然大地震に襲われる可能性は否定できない。今後1週間程度、最大震度5弱程度の地震が起きる可能性が高いことを念頭に、発生時の行動を想定しておく必要がある。

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