社説

[トランプ氏演説]米国復活への渇望映す

2025年1月22日 付

 「私がこのような歴史的な政治的復活を遂げることは不可能だと考える人々も多くいたが、ご覧の通り、今日、私はここにいる」
 米国のトランプ新大統領は4年ぶり2期目の政権に臨む就任演説で、自信たっぷりに胸を張った。
 民主党のバイデン前政権下でインフレは激化し、不法移民が急増。不満を募らせた国民が昨年11月の大統領選で、より「強い指導者」を選んだのは、「米国復活」への渇望感が深刻だったことの裏返しだ。トランプ氏は託された民意に応えられるのだろうか。
 連邦議会議事堂で開かれた就任式でトランプ氏は、この4年間を衰退と批判し「今日から全てが変わる。米国の完全な復活と常識の革命が始まる」と強調した。1期目就任時は抗議の怒号に包まれた米首都ワシントンに、共和党支持者の歓喜コールが響いた。
 就任演説では、世論を二分する政策を次々に並べた。
 「不法移民の入国を直ちに止め、多くの外国人犯罪者を送り返す」「米国民を豊かにするため関税を課す」など、かねてからの主張を繰り返した。
 だが移民排除は労働力を不足させないか。関税を外交上の武器とするような強硬な政策は、報復関税や輸入物価上昇につながらないか。かえってインフレ要因となるリスクは拭えない。こういった矛盾を解決する手だてが講じられなければ、新政権への期待は不満に変わると肝に銘じるべきだ。
 女性蔑視や人種差別的な発言を繰り返してきたトランプ氏。演説では「多様性、公平性、包括性に関する政策を終わらせる」「連邦政府が認める性別は男性と女性だけ」と、多様性を否定する考えを示した。領土の拡張に意欲を見せ、化石燃料を増産するとも宣言した。
 また、予告していた通り、初日から複数の大統領令に署名。その中には、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」の再離脱や、世界保健機関(WHO)脱退も含まれる。政策の大きな転換を印象づけた。
 自国第一主義の立場から既存の制度、手法を強引に切り捨てる性急な政権運営は、米国の求心力低下を招きかねない。国内の分断を深める懸念も強い。異なる価値観も尊重し、対話と理解を通して大国の責任を果たす態度こそ、真の「強い米国」の役目であるはずだ。
 世界は多極化が進み不確実性を増している。中国との緊張が高まる東アジアや中東情勢、ウクライナ侵攻、イスラエルとガザの紛争…。トランプ氏は和平構築に積極的に関わる意向を示すが、同盟国との連携にはいまのところ言及しておらず先行きは不透明だ。軽率な行動に出ないよう、日本を含む同盟国は熟慮を促す努力が必要だ。

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