社説

[埼玉道路陥没]インフラ老朽化に警鐘

2025年1月31日 付

 埼玉県八潮市で道路が陥没し、トラックが転落した事故は発生4日目を迎えた。運転手とみられる70代男性は、きのう夕方時点でまだ引き上げられていない。二次災害に十分注意しながら捜索救助に全力を挙げてもらいたい。
 現場の県道交差点の地下約10メートルに敷かれた下水道管が腐食し、破損した部分に土砂が流入。地中に空洞ができ、その上を車が通った重みによって引き起こされた可能性がある。
 私たちの生活を支える社会インフラの老朽化に潜む危険性に警鐘を鳴らす事故と言えるだろう。財政も人手も不十分な状況でどう管理していくのか。取り組みを急がねばならない。
 28日午前9時50分ごろ、陥没を目撃した男性が110番した。陥没直後に通ったトラック1台が落ち、水を含んで崩れた土砂に運転席が埋まった状態という。大型クレーンを使った救出作業は難航を極めている。
 翌29日未明には近くで新たな陥没も起きた。穴の範囲は拡大し、崩落は断続的に続いている。周辺住民の不安はいかばかりか。
 暮らしへの影響も大きい。破損した下水道管から水があふれないよう、県はさいたま市など県内12市町の約120万人に入浴や洗濯などの生活排水を控えるよう求める。八潮市は半径200メートル以内の世帯に自主避難を呼びかけ、ガス漏れの懸念から東京ガスは約130戸へのガス供給を停止した。
 県によると、下水道管は1983年に供用を始めた。腐食の原因として、汚水から発生した硫化水素が空気に触れて硫酸となり、徐々に劣化させた疑いが挙がる。国土交通省は7都府県に下水道管の緊急点検を要請した。
 国のデータでは、2022年度に全国で発生した道路陥没は計1万548件に上る。13%が下水道設備に起因するものだった。現時点で一般的な下水道管の耐用年数50年を過ぎる管は総延長の1割にまだ満たない。20年後には4割程度に達するとの試算も。今回のような事故が身の回りでいつでも起こり得ると自覚したい。
 重要な管路だけで約312キロを管理する鹿児島市の場合、新設のピークは1980年代後半で耐用年数も一気に訪れる。定期点検で長寿命化を図り、効率的に更新するためには人材は欠かせないが、専門職員は減る一方だ。自治体間の助け合いのシステム構築などを本格検討する段階ではないか。
 断水が長期化した能登半島地震を踏まえ、政府は住宅や集落ごとに循環機器で水を再生利用する、小規模な「分散型上下水道システム」の実証事業に着手する。浄水場、下水処理場、長い管路といった大規模施設が要らず、被災リスクの低減や修繕・維持管理費の抑制が狙いだ。人口減、税収減に備える危機対応が必要になっている。

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