社説

[西之表市長選]国と対峙し不安解消を

2025年2月4日 付

 6人で争われた西之表市長選は、現職の八板俊輔氏が3選を果たした。焦点となったのは、同市沖合の馬毛島で整備が進む自衛隊基地への考え方だ。
 賛成、反対を明確にした5新人に対し、八板氏は「二者択一で解決する問題ではない」と繰り返した。基地建設に賛成はしないが、工事が進む現状を否定する訳ではない、住民の戸惑いや揺れる思いを反映した結果に見える。
 工事作業員の急増により、生活環境や地場産業は打撃を受けている。国の安全保障政策の下、鹿児島県内各地で防衛の拠点化が進む中で、西之表市長の発信には広く注目が集まる。市民の不安解消へいかに国に対峙(たいじ)していくか、自治体首長の姿勢が問われる。
 6人の立候補は最多で、再選挙となった2017年1月と並ぶ。得票は次点以下の3人が基地賛成・推進派だった。賛成派にとっては選挙前から指摘されていた通り、票が分散した結果となった。
 過去2回の市長選も馬毛島が大きな争点となってきた。米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)移転計画の是非が問われた17年は、現職の勇退で新人6人が争い、いずれも有効投票総数の4分の1の法定得票数に達しなかった。4人による3月の再選挙で、受け入れ反対派の八板氏が勝利した。
 自衛隊基地整備が計画段階だった前回21年は、実質的に基地の賛否に分かれた一騎打ちだった。反対の立場を取った八板氏が僅差で勝ち抜いた。
 しかし八板氏は22年1月に日米両政府が基地整備地に馬毛島を正式決定して以来、「新たな局面に入った」とし賛否の言及を避けてきた。3期目の出馬に際しても明確にしなかった。真意を測りにくい態度への批判が大量立候補の引き金となったといえる。
 23年1月に始まった馬毛島の基地整備は工期が3年延長され、現時点で30年3月まで続く見通しだ。交通や医療機関の混雑、住宅不足、医療・福祉や1次産業分野から工事関係への人材流出など影響の長期化は必至だ。
 八板氏は「基地ができるのであれば、失うものを超える恩恵を引き出す」と訴えて支持をつなぎ止めた。事実上の「黙認」姿勢のままで、市民の不安と不満に寄り添えるのだろうか。
 基地の完成、運用を見据えた対応も課題となる。FCLPの騒音への懸念は大きい。市は種子島の上空飛行を防ぐ対策も求めてきたが、進展がない。環境の変化に直面する市民の安心、安全を守るには、市民、議会が一体となって国と向き合い、声を強めていくことが必要になる。
 17、21年それぞれの選挙で訓練移転、基地「ノー」の民意が示された経緯がある。国策の「既成事実化」や政府の地元軽視を許さぬ確かな歯止めと、3期目の存在感を発揮してほしい。

日間ランキング >