基本構想の段階での見積もりが、計画の具体化に伴って膨らむ。個人住宅でも、官民の施設建設でもあり得ることだ。発注主は費用を上積みするか、計画そのものを見直すかを選択することになる。
鹿児島県が鹿児島港本港区のドルフィンポート跡地に計画する新総合体育館も例外ではない。2022年1月の基本構想で事業費を最大245億円と見積もり、昨年313億円に上方修正した。そしてこのほど、500億円近くにまで増える見通しが報じられた。
大阪万博や西之表市馬毛島での基地整備、能登半島地震の復旧工事など、全国的な建設需要が高まっている。建築資材をはじめ人件費や金利の上昇など、建設整備費の積算が難しくなっているのは理解できる。
だが、増額が度重なり、3年間で約2倍に膨らむとなれば、戸惑う県民は多いのではないだろうか。
塩田康一知事は県議会定例会が始まる19日までに対応を表明する見込みだ。計画の縮小による事業費抑制も、選択肢の一つとなろう。
県は最大313億円で包括発注する計画で入札公告し、不調に終わった昨年9月の時点でも、競技面積などの規模や機能の見直しは「基本的に困難」との立場だった。このスタンスを変えないなら、500億円を投入する価値がある事業であることを、改めて県民に説明すべきだ。
いったん走りだした公共事業は費用がいくら膨らんでも止まらず、公費の追加注入が続く。過去にそんな実例を重ねてきたことが、国政や地方行政への不信感の元となっている側面は否めない。多くの県民が今、物価高に苦しみ、将来の地方交通や医療福祉の維持を心配している。生活実感に寄り添った判断を求めたい。
新体育館は、現体育館の4.7倍となる延べ床面積約3万平方メートルで、8000席以上の観客席があるメインアリーナや500席程度のサブアリーナ、武道場・弓道場をそろえる。スポーツ関係者やスポーツファンが長く待ち望んでいる施設なのは確かだ。だからといって、イベント誘致や集客、地元への波及効果など、楽観的すぎる試算で規模と機能の妥当性を主張するようなことがあってはならない。
先週発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故は、社会インフラの維持管理が難しくなる時代を予感させた。公共施設のスリム化は自治体行政の大きなテーマである。新たな箱ものが次世代への過重な負担とならないか、責任を持って検討を重ねる必要がある。
大型公共施設なら、大規模災害時の避難拠点といった役割も視野に入れるべきだろう。県は多方面からの検証にも堪えうる構想を提示し、県民的な論議を深めねばならない。