社説

[鹿児島県予算案]好循環を実現できるか

2025年2月8日 付

 鹿児島県は総額8527億円余りの2025年度一般会計当初予算案を発表した。前年度当初から1.5%増えた。
 人口減少の中、いかに社会の活力を維持していくかが課題だ。塩田康一知事にとって2期目に入って最初の予算となるが、「稼ぐ力」を重視し、担い手不足解消を図る従来の枠組みを踏襲する形だ。
 産業の活性化で人材を確保し、安心な暮らしにつなげる好循環を実現できるか。県議会で精査し、実効性ある施策につなげてほしい。
 「稼ぐ力」は、和牛やブリ、かごしま茶、かつお節、焼酎など県を代表する特産品の輸出拡大や、新型コロナウイルス禍から回復している訪日客誘致を図る事業が目を引いた。日本食ブームや伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録に着目し販路開拓を目指す。国内市場が縮小する中、輸出の拡大は欠かせない。鹿児島の潜在力を引き出す好機を逃さぬよう求めたい。
 農林水産業は、2023年の農業産出額が7年連続全国2位を堅持する基幹産業である一方、高齢化による担い手の減少、燃料や飼料、肥料といった資材価格の高止まりに直面している。経営が安定し、後継者や就業者が育っていくかが問われる。
 観光は外国人宿泊数の回復が遅れている。鹿児島空港の国際線直行便の便数回復やベトナムなどの新規就航がかぎとなる。鹿児島港への寄港が増加している海外クルーズ船は、経済効果を鹿児島市以外に波及できるかが課題だ。クルーズ船への水産物供給を目指す新規事業が好例となればいい。
 人材の確保・育成は、どの産業にとっても切実な問題となっている。新規事業でUIターン者の就職活動に必要な交通や宿泊費を支援する。外国人人材の確保は、県内企業とのマッチング先を現在多いベトナム以外にも広げる。日本語学習支援など、都市部への流出を食い止め、共生しやすい環境づくりにつなげたい。
 防災面では、孤立化集落対策など、能登半島地震で浮上した課題に対応する。2年かけて県内の被害予測調査を実施する。木造住宅の耐震化補助への上乗せも盛り込んだ。官民の体制整備が急がれる。
 鹿児島市のドルフィンポート跡地に計画する新総合体育館整備の関連事業は現時点で盛り込まれていない。最大313億円で包括発注する計画が入札不調となったためだ。事業費は500億円近くに膨らむと報じられている。体育館以外に県有施設の老朽化による建て替えも控え、財政圧迫は続く。
 高齢化で買い物や医療・介護の「難民」問題が深刻化する懸念がある。暮らしの安心を維持するための目配りを忘れないでもらいたい。

日間ランキング >