いよいよあす、鹿児島県下一周市郡対抗駅伝の号砲が鳴る。本紙「ひろば」欄には先日、「冬から春への移ろいと、心豊かな時間を運ぶ一大イベント」の本番が待ち遠しくてたまらない、という読者の投稿が載った。多くの駅伝ファンが共感したはずだ。
奄美の日本復帰と、ラジオ南日本(現・南日本放送)の開局を記念して1954年に始まった。第72回大会を迎える今年も、5日間、53区間583.2キロでどんなドラマが生まれるか楽しみだ。
より安全な運営に向けて、新しいルールも加わった。選手、スタッフ、応援者みんなで最大限の注意を払い、笑顔でたすきをつないでほしい。
これまで走り継いできたランナーは延べ4万人以上になる。12地区のチームが、世代や所属にかかわらず一丸となって健脚を競う。
今大会を前に、本紙スポーツ面には各地区の関係者インタビューが連載された。駅伝に出たいと鹿児島に就職先を求めた県外出身者がいる。20回以上出場したベテランや、一度は引退したものの誘われて選手やコーチとして戻って活躍する人がいる。さまざまな立場だが、「駅伝は1人で戦うスポーツではない」との思いは共通だ。
どんなに苦しくても、力を振り絞り、仲間が待つ次の中継所へ走り込んでいく姿が感動を呼ぶのだろう。
勝負は全12チームによる総合優勝争いだけでなく、前回大会の成績を基に4チームずつを振り分けたA、B、Cのクラス別の優勝も見どころとなる。
事実上の総合優勝争いのA級は、連覇を狙う鹿児島と、5年ぶりの頂点を目指す前回2位の姶良を軸に展開しそうだ。日置はB級を制するだけでなく、2年ぶりの総合優勝奪還を目標に掲げる。どのチームも若手の選手層が厚くなり混戦模様とされるC級は、曽於と大島がやや有利との見方だ。地域の誇りを胸に、252選手が薩隅路を駆け抜ける。
第52回と第65回大会では痛ましい交通事故が発生した。再び起こさないよう運営側は対策の見直しを重ねる。
今回は各チーム上位21人の10キロ平均タイムを33分20秒以内とし、35分以上の選手がいないことなどを参加資格に加えた。選手の隊列を短くし、道路交通に配慮するためだ。トップとの差7分が目安だった下位の繰り上げスタートは、5分に短縮する。これにより、たすきをつなげないケースが増えそうだ。関係者に葛藤はあるが、主要道の交通規制を伴う以上、何より安全を最優先しなければならない。
鹿児島の早春の風物詩としてすっかり定着した県下一周駅伝。警察や医師会、中継所のボランティアなどの支えがあっての歴史である。多くの人々の労に感謝したい。