選択的夫婦別姓の導入可否を巡る議論が、開会中の国会で一つの焦点になっている。自民、立憲民主、国民民主の各党も党内議論を本格化させた。
きっかけとなったのは昨年6月、経団連が選択的夫婦別姓制度の導入を提言したことだ。(1)ビジネスの現場では、旧姓併記を拡大するだけでは解決できない課題が多数(2)女性活躍が進むほど通称使用による弊害が顕在化-などと指摘。社会に合致した法の改正を求めた。
法制審議会が1996年、法務大臣に制度の改正要綱を答申してから四半世紀以上が経過した。改正を求める動きはその後も度々あったが、「家族の一体感」を重視する反対派や慎重派が阻止に動き、導入は棚上げされてきた。この間、女性の社会進出が進み、家族の在り方も多様化した。国内外の現状を見据え、国民の誰もが不利益を被らない制度作りの議論を前進させる必要がある。
夫婦同姓は、「家制度」を採用した1898年の民法制定にさかのぼる。戸主に家を統率する権限を与えた法律で、妻は夫の姓を名乗ることが規定された。戦後の法改正で「家制度」はなくなったが、民法750条に「婚姻の際には、夫または妻の氏を称す」と定められた。家制度の意識も残り、婚姻で姓を変更するのは9割以上が女性という実態が続く。
一方、国際的には大きな変化が見られる。夫婦同姓を定めていた国々が次々と法改正し、婚姻時に同姓しか認めない国は日本だけとなった。国連女性差別撤廃委員会は、昨年秋までに4度も制度是正を勧告している。
国内では「人口の都市部集中」「晩婚化」「離婚の増加」など家族の在り方は多様化が進む。社会で働く女性が大幅に増え、人口減少が進む中、共働きは社会を支える根幹とも言える。
働く人たちは男女に関係なく、旧姓を通称としているケースは多い。彼らから「多くの金融機関は通称で口座を作ることを認めていない」「海外で公的施設に入館の際、身分証と名簿に記載された通称が違うためトラブルとなった」などさまざまな不利益を被った事例が報告される。
経団連の提言はこうした変化を踏まえた上で、結びに「姓名は人格を示すものであり、築いてきた実績や人脈にひも付くキャリアそのもの」と指摘。本人が望めば姓を選択できるように社会制度を見直すことは、性別に関係なくキャリアやアイデンティティーを守る観点から大切な取り組み、とした点は説得力がある。
石破茂首相は就任前、選択的夫婦別姓の導入について「基本的に実現すべき」との立場だった。党内の反対派、慎重派の声にも十分に耳を傾けた上で決断の一歩を踏み出してもらいたい。