社説

[政府備蓄米放出]安定流通で食の安心を

2025年2月21日 付

 コメ高騰への対処策として、政府は最大21万トンの備蓄米放出を決めた。凶作などではなく、流通の円滑化を狙って実施するのは初めてとなる。来月下旬にも店頭に並ぶ見通しだ。
 スーパーのコメ価格は1年前に比べ8割も値上がりしている。流通量は戻らず、鹿児島県内でも販売制限が続く。暮らしへの影響は深刻な事態と受け止める必要があるだろう。備蓄米放出によるプラス効果に期待したい。
 しかし「令和のコメ騒動」がこれで収束するとは限らない。日本人の主食であるコメの流通の安定化を図り、食の安心を守るため、中長期的視点で政策を見直さなければならない。
 備蓄米は1993年の大凶作を教訓に農林水産省が95年から制度化した。著しい不作などの緊急時に備えて100万トン程度を目安に国が保有し、毎年20万トン程度を入れ替えてきた。
 東日本大震災の際に4万トン、熊本地震の際に約90トンが放出された例がある。昨夏、コメの民間在庫が過去最少になり価格が高騰し始めて活用を求める声が広がったが、近く新米が出回ると見ていた政府は慎重だった。
 結果的に、秋以降も相場の高止まりは解消されなかった。方針転換まで半年。値動きへの目配りが足りず、対応が後手に回ったと言われても仕方あるまい。
 予想が外れた背景には集荷競争の激化がある。
 2024年産米の収穫量は前年から18万トン増えたにもかかわらず、主要な集荷業者の11月末時点の集荷量は17万トン減った。どこに消えたのか。コメの先高感から、一部業者や農家が抱え込んだとみられ、投機筋の買い占めが絡んでいるとの見方もある。健康にも大きく関わる主食の高騰を当て込む“金もうけ”を見過ごすことはできない。
 今回の備蓄米放出は主要な業者で不足している集荷量に相当する異例の規模。流通の目詰まりが解消できそうだ。また農水省は、在庫量を正確に把握するための調査対象に、新たに農家や小規模卸売業者も加える方針という。買い占めへの牽制(けんせい)効果を期待したい。
 主食用米の需要は毎年10万トンのペースで減っている。作りすぎると値崩れが起き、農家経営が危うくなるとして政府は飼料用米や麦への転作を促し、コメ生産量を抑制してきた。
 この「価格維持政策」の限界があらわになっている。今後は、インバウンド(訪日客)による外食需要などの急増にも対応できる柔軟性を保てるようにするべきだ。輸出向けを増やし、国内需要が跳ね上がったときに備えることも選択肢ではないか。
 担い手農家の高齢化は急速に進む。農業を将来性のある仕事にして就農を促さなければ、日本の食は危うい。農業問題は消費者に直結している。

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