社説

[国の原発訓練]検証し防災計画反映を

2025年2月22日 付

 九州電力川内原発(薩摩川内市)の重大事故を想定した国と鹿児島県合同の総合防災訓練が、主に原発30キロ圏内の9市町で行われた。
 初動対応から避難所運営まで多彩な内容に関係機関職員と住民ら約4800人が参加し、役割分担と連携を確認した。結果を検証して課題を洗い出し、避難をはじめとした防災計画の実効性向上に役立てなければならない。
 原発の国訓練の県内実施は2013年10月以来。14日から3日間にわたって緊急事態の推移に合わせて手順を踏んだ。1日限りの訓練とは違った知見を得る狙いは理解できる。
 県西方沖で最大震度7の地震が発生し、川内原発1、2号機ともに自動停止したものの、1号機は設備故障が重なったと想定した。最終的には原子炉が冷却できなくなって放射性物質が放出される事態にまで進展した。
 最大の特徴は昨年の能登半島地震を踏まえた内容を採り入れた点だ。原発立地地域では、地震との複合災害で道路が寸断されたら計画通りに避難できるのかという不安が広がっている。
 原発の重大事故では、5キロ圏内の住民は放射線被ばくを防ぐために即時避難し、5~30キロ圏では屋内退避するのが原則とされる。想定に道路や橋の損壊、孤立地区の発生を加えたことで現実性が増した。
 とはいえ、自衛隊ヘリによる孤立者救助など5キロ圏内の避難は、放射性物質の放出がないことが前提だった。放出があれば防護服を着用し線量計を確認しながらの活動を強いられる。格段に難しくなると認識しておきたい。
 訓練の一部はシナリオを事前に参加者に伝えず実施した。薩摩川内市では地震の影響や出張で参集できない幹部職員に代わり消防団員が放射線防護施設を開設した。鹿児島市に設定していた住民の避難先を被災状況に応じて姶良市へ変更する場面もあった。
 こうした取り組みは参加者の緊張感を高め、臨機応変の判断を求めることにつながる。さらに実践的な訓練となるよう工夫を重ねるべきだ。
 原発事故時に最も懸念される事態の一つは住民のパニックである。目に見えない放射線を恐れるあまりわれ先にと避難が殺到すれば、渋滞や事故を誘発し、防災計画は破綻しかねない。
 住民に冷静な行動を求めるには迅速かつ正確な情報伝達が何より重要だ。その前提として、関係機関が普段から原子力防災に関する知識の普及啓発に努めておくことが欠かせない。
 今回の訓練では県の原子力防災アプリが活用され、スマートフォンに事態の推移や避難・屋内退避の指示が伝えられた。各市町の防災計画や避難地図を確かめることもできる。対象住民は情報入手手段の一つとして、導入を検討してほしい。

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