社説

[川内原発「棄却」]不安に何ら答えぬまま

2025年2月23日 付

 九州電力川内原発1、2号機(薩摩川内市)の周辺住民ら約3000人が運転差し止めを求めた訴訟で、鹿児島地裁は訴えを退ける判決を言い渡した。
 原告は福島第1原発事故翌年の2012年以降、12次にわたり提訴。約13年に及ぶ審理を通じて原発の安全性に不安を訴えてきた。「運転自体が、憲法が保障する人格権と生存権を侵害している」との切迫感を、裁判所が真摯(しんし)に受け止めたようには見えない。
 「地震や噴火、テロなどによって放射性物質が大量に放出される事故が起きる具体的な危険性は認められない」-。国と電力会社の主張をほぼ追認し、原発に一定のお墨付きを与えるような判断を示した責任は重い。福島の教訓はこれほどまでに軽くなったのか。
 主な争点に挙がっていた避難計画への言及が少なかったのが気にかかる。
 原告側は避難バスや要配慮者の避難先が不足し、複合災害に至っては屋内退避も非現実的だと訴えていた。判決はそれらに正面から応えず、避難計画の中身の評価に踏み込んでいない。重大事故発生のおそれが低い以上、計画に不備があっても原告の生命や健康に危害はないとした。
 原発周辺の自治体は、事故に備えて避難計画を作る必要がある。実効性を問わないというのは丁寧さを欠く。
 昨年の能登半島地震以降、全国の原発立地県では、自然災害と原発事故が重なった場合の安全退避が課題に浮上している。原子力規制委員会も政府も具体的な方針がまだ定まらない中、予見性を持った司法の判断に原告側が期待するところは大きかったはずだ。
 そのほか窪田俊秀裁判長は判決理由で、九電が設定した基準地震動(耐震設計の目安となる地震の揺れ)について「不合理な点はない」と指摘。桜島などの周辺火山で破局的噴火が起きる可能性が十分小さいとする九電の評価も、「不合理とはいえない」と妥当性を認めた。九電側は「主張が認められた。今後とも安全確保に万全を期していく」とのコメントを出した。
 福島事故以降、全国の原発は停止したが、川内原発は新規制基準下で初の再稼働を果たした。1、2号機は通常運転中で、1号機が昨年7月に稼働40年を迎え、最長20年の延長期間に入った。2号機は今年11月に40年となる。両機とも実質60年超の運転を可能にする新たな制度が適用される見込みだ。
 先頃、国の中長期的なエネルギー政策指針「エネルギー基本計画」の改定案が閣議決定された。今回の判決は、国が回帰する原発推進策への忖度(そんたく)ではないかとの疑いを抱かざるを得ない。
 原告側は不服として控訴する方針だ。福島には今も原則立ち入り禁止の帰還困難区域が残る。豊かな国土、そこに暮らす人々の生活が失われないよう、司法はしっかり耳を傾けるべきだ。

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