社説

[新体育館見直し]十分な判断材料示して

2025年2月25日 付

 鹿児島県が鹿児島市の本港区ドルフィンポート跡に計画する新総合体育館について、塩田康一知事は、事業費を488億円に引き上げる見直し案を示した。開業は早くても、当初見通しより3年遅れの2032年度末となる。
 基本構想から事業費が2倍近くに膨れ上がった計画に対し、県民や県議会からは財政面の懸念や批判が相次ぐ。もともと立地や事業規模を巡って意見が分かれていた。前提が変わるとなれば、なおさらだろう。
 このまま増額案を推し進めるのか。抜本的に見直すのか。開催中の県議会では安易に追認することなく、県民にとって十分な判断材料となる徹底した議論が求められる。
 見直し案は、メインアリーナの観客席を8000席から7000席にするなど施設全体の収容人数を減らしコスト削減を図る。ただ修正は限定的で、従来の構想に沿った内容と言える。
 事業費は22年3月策定の基本構想で205億~245億円と見積もっていた。建築資材や人件費高騰を理由に昨年3月、313億円に増額した予算案を県議会が可決。入札にかけたものの、検討した2事業者は9月に辞退していた。予定価格に見合わないと判断したとみられる。
 その間の7月にあった県知事選は新体育館問題が争点の一つとなり、対立する2候補が景観を理由に建設地や規模見直しを掲げた経緯がある。入札不調後の12月議会では与野党から「白紙に戻したらどうか」といった再検討を求める指摘が相次いでいた。
 488億円の案に対して県議からは、さらなる上振れを心配する声がある。「後出しで、どんどん追加されないか」との疑念が湧くのも無理はない。
 凍結や撤回、または入札時点の313億円以内に収める方法はないのか。塩田知事は、築60年以上たつ現体育館の老朽化が著しいことや、遅れるほど事業費が増える恐れから先送りを否定。全国的な大会を開くため必要最小限の規模であると強調する。
 延べ床面積で現体育館の4.7倍となる大型施設である。中心市街地に近い立地を踏まえ、コンサートや展示会誘致も見込む。しかし国民スポーツ大会(旧国体)といった大型大会は運営の負担が大きく、簡素化や分散化が課題に浮上しているのが現実だ。
 今まで県内で開催されてこなかった大規模イベントの需要もどう見通しているのか、イメージしにくい。将来、過大な施設を持て余すことにならないのだろうか。
 過去に県が整備した箱もので最大規模となる。農業試験場跡地や現体育館、武道館の敷地といった県有財産の売却益をつぎ込む想定だ。他に優先すべき事業へのしわ寄せがないか、見極めが必要だ。

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