高校授業料の無償化について自民、公明の与党と日本維新の会が、正式に合意した。就学支援金に関し新年度から公私立で年収を問わず全世帯に約12万円を支給するほか、2026年度からは私立高の上限額を45万7000円に引き上げる内容だ。
高校生のいる世帯にとって家計の負担軽減になるのは間違いない。しかし鹿児島県内では通学手段の確保や教員の配置もままならないといった課題が切実な公立高教育の実情と照らすと、それが優先事項なのか疑問だ。
無償化の拡大で私立の志願者が増えれば、過疎地の公立校の縮小や再編を加速する懸念もある。選択肢の多い都市部との教育格差は拡大しかねない。
無償化は09年に政権を取った民主党が打ち出した。10年度から公立は授業料を徴収せず、私立は年約12万円を基本とし、低所得世帯に上乗せ支給する就学支援金制度を始めた。自公政権に戻ると14年度から所得制限が設けられ、公私立とも支援金制度になった。
現状は、約12万円の支援金の対象が世帯年収910万円未満に限られる。私立の場合は年収590万円未満なら約40万円まで加算される。これに対し維新は、所得制限の撤廃や私立は63万円までの増額を強く求めていた。
高校進学率は100%近い。最近、東京都と大阪府は独自に上乗せし、所得制限をなくした。自治体の財政状況によって格差が生じないよう、国の措置を求める声があるのは理解できる。
しかし十分な所得のある世帯や、私立と公立を同列に扱うことには懸念がある。高所得層は、浮いた分を塾代など他の教育費に回すことができるだろう。私立校の学費や教材費値上げが起こり、子育て世帯の支出は減らないという指摘もある。
私立を選びやすくなるのに対して、公立の地盤沈下を引き起こす恐れもある。現に東京都と大阪府は、応募倍率の低下や定員割れが起きた。
県内の公立校は既に深刻な定員割れが続いている。25年度入試の出願倍率は0.81倍で過去最低だった。少子化に対応できていない実態がある。
バス路線や鉄道便数が急速に縮小し、各地で通学に支障が出ている。教員数は定員に応じて決まるため、小規模校は配置が少ないのも悩みだ。スクールバスによる通学や希望する進路への対応が可能な私立への流れは、無償化政策によって強まるだろう。
定員割れがより急激となれば、地域の拠点でもある高校の存続に関わる。地元に根ざした学校で教育を受ける機会は、損なわれる恐れがある。
無償化には5000億円超の予算が投じられる。予算案成立と夏の参院選をにらむ与野党の駆け引き材料となったように映る。地方の教育の質をどう確保するか、肝心な議論が欠けている。