社説

[米とウクライナ]決裂修復し協議再開を

2025年3月4日 付

 大統領同士の怒鳴り合いが、世界中に中継されるとは。ウクライナ戦争の終結に向け協議するはずだったトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談は、決裂に終わった。
 和平交渉の先行きは、不透明感を増す。トランプ氏が、ウクライナへの軍事支援を大幅に後退させる可能性もある。
 米国がこのままウクライナを見捨てることがあれば、侵略を開始したロシアを利するだけだ。公平な和平の実現は遠のく。双方が冷静さを取り戻して修復を図り、協議を再開すべきだ。
 会談は、ウクライナの鉱物資源の共同開発に関する合意文書への署名が予定されていた。ウクライナは、合意を突破口として軍事支援と戦後の安全保障について確約を得たい考えだった。
 トランプ氏がロシアのプーチン大統領を信頼できると主張したのに対し、ゼレンスキー氏は第一次トランプ政権下でもロシアはウクライナを攻撃していたと指摘。プーチン氏が過去の停戦合意を破ってきたと訴え、この戦争が終結したとしても再侵攻する可能性を指摘した。ロシア寄りの姿勢に疑問を呈された米国側が、激怒した格好だ。
 トランプ氏にとって痛いところを突かれたのではないか。「支援される側」であり、格下と見なすウクライナが米国に盾突くことは許さない、との権威的な姿勢もあらわだ。
 ゼレンスキー氏は挑発に乗ってしまった。自身の支持者にどう映るかを重視するトランプ氏と、報道陣の前で衝突したのは「自滅」に等しい。プーチン氏より先に首脳会談にこぎ着けた好機を逃し、最大の後ろ盾を失う瀬戸際に立たされた。
 バイデン前政権下で固い結束を誇った両国関係は、トランプ政権発足後、急速に悪化。対照的に米ロ関係は改善基調にある。米国は、ウクライナの頭越しにロシアとの交渉に乗り出していた。感情的な言い争いは、信頼関係の回復が容易ではないと印象づけた。
 トランプ政権はウクライナ支援の「見返り」として天然資源の権益を要求していた。その上、ウクライナが求める安全の保証については「確約していない」と語った。米国第一の「取引」に、無理があったと言える。
 トランプ氏は「プーチンは約束を守る」と繰り返すのみだ。侵略したロシアの責任は問わず、「紛争終結」のみを優先して和平交渉を進めても、国際秩序は維持できない。
 英国、フランスなどは、米国とウクライナの関係修復に向け、仲介の努力を続けている。欧州首脳が集まったロンドンでの会合で、英、仏などの有志国とウクライナが停戦・和平計画を策定する方針を打ち出した。成否を左右する米国の協力を、日本も含めて粘り強く働き掛けることが求められる。

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