社説

[東日本大震災]共同体の再生後押しを

2025年3月11日 付

 2011年の東日本大震災から14年となった。住まいの再建や道路といったインフラの復旧は一通り進んだ。
 一方、東京電力福島第1原発事故が起きた福島県では、なお帰還困難区域が残る。今も避難を強いられている人は同県を中心に約2万8000人に上る。
 もともと人口減少が進んでいた沿岸部を災害が襲い、若年層や子育て世代が地元を離れ、高齢化の加速に歯止めがかからない。ばらばらになった共同体の再生を後押しし、地域の活力を維持する取り組みが求められている。
 地震の大きさを示すマグニチュードは、日本で観測史上最大の9.0。東北地方の太平洋側にある岩手、宮城、福島の3県を中心に津波が襲った。福島第1原発は原子炉を冷却できなくなり、放射性物質が外に漏れた。
 死者は1万5900人、行方不明者が2520人。住宅やインフラ、なりわいなどの生活基盤は壊滅的な打撃を受けた。避難などに伴う災害関連死は今も増えており、3808人に上る。
 津波被災地では、自治体が宅地の高台への集団移転や、かさ上げする土地区画整理を実施した。ただいずれも利用されているのは約4分の3にとどまる。設計や住民の合意に時間がかかり、避難先での生活が定着して戻らない人が多かった。空き地の活用とコミュニティー再建への工夫が急務だ。
 人口は、震災前と比べ岩手で14.0%、宮城で4.4%、福島で14.1%減った。特に20~30代の減少率が高い。中でも女性が目立つことから岩手県は、女性が活躍しやすい環境作りを流出防止の鍵と位置付ける。流れを覆すのは容易ではないが、企業と連動した取り組みに注目したい。
 岩手県と宮城県ではインフラ面の整備はほぼ完了し、心のケアなどソフト面に重点が移る。一方、原発事故に伴う福島県の復興は見通せないままだ。帰還困難区域は、富岡町や大熊町など7市町村に設定されている。避難指示が解除されたエリアも帰還は進んでいない。廃炉や、放射線量を下げる除染で出た土や廃棄物の最終処分などの課題に終わりが見えないからだろう。
 昨年第1原発2号機では廃炉の最難関とされる溶融核燃料(デブリ)を初めて試験的に回収したが、わずか0.7グラム。デブリは3基計880トンあると推計される。51年までに廃炉を終えるとする国と東京電力の目標に疑問符がつく。愛着のある土地から住民を引き離す原発事故の取り返しがつかないことは、一層あらわとなっている。
 大規模な山林火災に見舞われた岩手県大船渡市には、再び各地の消防が応援に駆けつけた。被災地の経験や教訓を伝え、助け合う仕組みが定着したのは心強い。防災や人口減少への対処も鹿児島など地方に共通の悩みだ。自治体間の連携に期待がかかる。

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