社説

[学術会議法案]これで独立性保てるか

2025年3月12日 付

 日本学術会議を現在の「国の特別機関」から特殊法人へ移行させる法案が閣議決定され、国会に提出された。2020年の菅義偉元首相による会員候補6人の任命拒否を発端とする組織見直しだ。
 新法人は国が財政支援し、首相任命の役員「監事」や評価委員を置いて業務や財務を監査する。首相による会員任命こそ廃止されるものの、活動を政府に管理され、独立性が損なわれる危惧が拭えない。学問の自主性や多様性が確保できるかは大いに疑問だ。
 そもそも政府は、菅政権時の任命拒否の理由を説明していない。政治が学問を意のままにコントロールする狙いを疑われても仕方あるまい。
 政府が前に示した改正案には、会員選考の際、第三者で構成した委員会の意見を尊重しなければならないとする内容が盛り込まれていた。学術会議側が問題視し、23年4月に撤回を余儀なくされたのは当然だった。
 新法案では、会員は学術会議総会が任命するが、外部有識者からなる「選定助言委員会」が意見を述べる。定員は現在の210人から250人に増やし、政府への勧告権限は維持する。
 政府は学術会議のメンバーも参加した「懇談会」での議論に基づく報告書をベースに新法案を練り上げた。会員選考から首相任命のプロセスがなくなったことを受け、「妥協点として良いのではないか」と肯定的に捉える会員も少なくないという。
 光石衛学術会議会長は「自主性・独立性の観点から指摘してきた懸念が払拭されない中での閣議決定は遺憾だ」との談話を公表した。だが、23年に法案を撤回させたような一枚岩の反発があるようには見えない。
 新法人に移行すれば、寄付を受けたり、民間企業と契約を結んだりすることも可能になる。自民党議員の中には「学術会議側が新たな収益事業を考えるのは当然だ」との声もある。スポンサーからの資金獲得は、学問の中立性を損なう恐れと表裏一体だ。
 現行法は学術会議の目的を「行政、産業および国民生活に科学を反映浸透させる」と明記している。研究の成果や提言、勧告が、時の政権や経済界の意向に沿った内容とは限らない。
 それでも、政府は学者の真理探究に干渉も介入もせず、より幅広い視野で人類や社会に貢献する自律的活動の後ろ盾に徹するべきだ。その姿勢こそが憲法23条で定める「学問の自由」の保障であり、民主主義国家の大切な支柱でもあるはずだ。国策に沿わぬ学説が排斥され、国民の精神的自由も縛られた戦前戦中の失敗は繰り返せない。
 新法案に関心を高め、あらゆる懸念を払拭するための発信を学術会議に期待したい。政府はその声に真摯(しんし)に耳を傾ける必要がある。

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