社説

[万博まで1カ月]かなうか「成長への夢」

2025年3月15日 付

 「くるぞ、万博。」のキャッチコピーが、いよいよ現実味を増す。来月13日の大阪・関西万博開幕まで1カ月を切った。
 10月まで半年間、大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)で開かれる。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに自治体や民間企業の他、158カ国・地域と7の国際機関がパビリオンを出展する。
 国内では20年ぶり3回目となる。過去の成功体験もあり、政府や地元は「成長の起爆剤に」と期待を寄せる。だが入場券の販売は低調で、海外館の建設遅れも目立ち、いまだ機運が上向かない。「成長への夢」はかなうのか。
 2014年、松井一郎大阪府知事(当時)が誘致に向けた検討開始を表明。16年に会場を夢洲に決めた。カジノを含む統合型リゾート(IR)の候補地でもあり、大阪府と大阪市は相乗効果で関西経済の浮揚を目指した。
 博覧会国際事務局総会で誘致が正式決定し、23年4月に起工式にこぎつけたが、振り返ると迷走ぶりが際立つ。
 国、大阪府・市、経済界が各3分の1負担する整備費は資材高騰や人手不足で上振れし、当初予想の1.9倍に当たる最大2350億円に膨らんだ。
 加えて、府・市は夢洲へのアクセス鉄道や道路の整備、それに伴う軟弱地盤対策、地中メタンガス対応などを迫られた。国費も一部投入された。
 税金を投入するからには、会場を人工島にした判断の妥当性について、今後の検証が避けて通れまい。
 入場券が原則オンライン購入で来場日時予約が必要なのも、島への交通手段が限られ、混雑を緩和するためだ。だが「複雑で使いにくい」との声は根強い。当初の前売り目標1400万枚に対し今月5日時点の売り上げは806万枚と、達成はほぼ難しくなった。
 事務局は新たに当日券や割引価格の「通期パス」を導入し、期間中を含む2300万枚の最終販売目標は堅持する。未達となれば、1160億円の支出を見込む運営費の大半を入場券で賄う、としてきた青写真は崩れ去る。
 赤字まで公費で賄うのか。政府が見込む経済効果3兆円は実現するか。跡地利用まで含め、先送りの課題を注視していく必要がある。
 1970年の大阪万博の際は、携帯電話や動く歩道、電気自動車、温水洗浄便座といった当時の先端技術が披露された。今回の目玉展示には「空飛ぶクルマ」や、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を心筋細胞に変化させてシート状に加工した「心筋シート」などが挙がる。コンセプトに据えるのは「未来社会の実験場」だ。
 分断が進む国際情勢の現状を考えれば、会場シンボルの大屋根リングの下に各国が集結する意義も決して小さくない。今、なぜ、日本で開くのか。情報発信が一層大事な時である。

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