鹿児島市吉野町の磯地区にJR日豊線「仙巌園駅」が新設された。県内のJR駅の開業は、いちき串木野市の神村学園前駅以来15年ぶりとなる。
今年は磯の旧集成館や異人館を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されて10年。新駅の設置に併せ、一帯の回遊を楽しめる環境整備が進んでいる。利便性と観光拠点としての魅力が高まるのは間違いない。磯の歴史と景観の発信に生かし、沿線全体の活性化につなげていきたい。
新駅は、無人駅で1日上下57本が停車し、400~600人の乗降客を見込む。黒色を基調としたシンプルな駅舎で、旧集成館や異人館の独特な景観に溶け込む。
鹿児島中央駅と新駅間は10分足らず。磯地区までのアクセスは、これまでのバスやタクシーに列車が加わり、各段に向上した。ベンチを備えた駅前広場は7月に完成する。
鹿児島市街地からトンネルを抜け、右手に鹿児島湾と桜島が広がったかと思うと波打ち際を見下ろす新駅に到着する。旧集成館(尚古集成館)の真正面に立つ新駅は、異人館や磯海水浴場までそれぞれ5分前後で歩いて行ける。観光客のみならず、県民にとっても新たな発見ができそうだ。
磯海水浴場にある市の磯ビーチハウスも刷新する。大部分は民間事業者に貸し、海水浴時期だけでなく通年での利用を目指す。駅と併せてさっそくカフェが開店した。
仙巌園やまちづくり団体は世界遺産10年の節目、歴史の発信に力を入れる。名物のじゃんぼ餅店など周辺一体となったにぎわいづくりに期待したい。
新駅は、地元の要望を受けて新設するいわゆる「請願駅」だ。構想は旧集成館などの世界遺産登録を見据えた2012年ごろ浮上。鹿児島市や経済団体でつくる協議会がJR九州と設置場所を模索してきた。
駅舎と駅前広場、周辺道路改良を含む総整備費は約12億3000万円に上る見込みだ。内訳は国(国庫補助を含む)が4億4000万円、県と市が2億7500万円ずつ、仙巌園を運営する島津興業は2億4000万円を負担する。
駅の新設を巡っては、税金投入を疑問視する声もあった。交通渋滞の悪化や列車通勤・通学者への影響などが主な理由に挙がった。
仙巌園付近の国道10号と市道は慢性的に渋滞している。特に通勤時間帯は市街地向けが混み合う。新駅の南側に踏み切りがあるため、遮断時間が長くなる懸念があった。対策として朝の下り列車は、新駅に止まらず通過するなど遮断時間の短縮を図るという。
霧島方面とつながる日豊線の乗客増に期待がかかる。一方で新駅隣の竜ケ水駅に止まらない便が増えないか、マイナスの影響に目配りしたい。