社説

[ウクライナ和平]ロシア主導の交渉危惧

2025年3月23日 付

 トランプ米大統領がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナのエネルギー施設への攻撃停止を提案して受け入れられた。ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話会談し、同意を取り付けた。

 限定的な攻撃停止であり、即時停戦とは程遠い。それでも、和平に向けた一歩といえる。これを足がかりに、全ての戦闘地域での包括的な停戦に結びつけなければならない。

 ロシア側発表によると、プーチン氏は米国の対ウクライナ軍事支援の完全停止を要求した。一方で米提案の30日間の全面的な停戦には応じなかった。

 侵攻から3年以上が経過し、戦況はロシア有利で展開している。プーチン氏にとって、全面停戦を急ぐ理由は見当たらない。部分的な攻撃停止に同意してトランプ氏との関係を保ちつつ、戦闘終結を先延ばししてウクライナ軍を弱体化させ、少しでも多くの領土を占領する狙いがうかがえる。

 こうした思惑でロシアが交渉を主導すれば、戦場で命を落とす双方の兵も、巻き添えになる市民も増え続ける。トランプ氏は昨年の大統領選で「就任後24時間以内に戦争を終わらせる」と繰り返し、プーチン氏との交渉に自信を見せていた。武力による現状変更に歯止めをかけて一刻も早く戦闘をやめさせ、ウクライナ国民の安心と安全を取り戻す必要がある。

 ウクライナ南部にあるザポロジエ原発は欧州最大で、侵攻直後の2022年3月にロシア軍が占領した。現在はロシアの監視下でウクライナ側の職員が管理しているとされる。国際原子力機関(IAEA)も専門家を常駐させて状況確認しているが、治安は不安定で危険性は高い。

 そのほかの原発や電力インフラも含めた攻撃停止は、市民生活の一つの不安解消になろう。事故回避と電力安定供給のため、攻撃停止の確実な履行をロシアには求めたい。

 トランプ氏はゼレンスキー氏との電話会談でザポロジエ原発を米国が所有する案を提示したという。ゼレンスキー氏は「協議していない」と否定している。トランプ氏としては米国が所有して安全を確保するつもりだろうが具体性を欠き、唐突すぎる提案にしか見えない。

 両者は先月28日のワシントンでの会談では激しく口論し、物別れに終わった。今回の電話会談で、一定の関係修復ができたと見ることもできる。

 だが、トランプ氏がゼレンスキー氏の頭越しにプーチン氏と協議を進めれば、ウクライナ側の態度が硬直化し、結果として和平を遠ざける可能性が高い。当事者双方の折り合えるポイントを見いだし、利害を調整するのは超大国のリーダーの責任である。慎重な目配りを欠かさないでほしい。

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