社説

[交通機関値上げ]担い手の賃上げ実現を

2025年3月26日 付

 来月から鹿児島県内で鉄道、路線バスをはじめ公共交通機関の料金引き上げが相次ぐ。燃料費の高騰や、運転士・運転手の待遇改善への対応に充てるという。
 ここ数年、担い手不足を理由とする減便・廃止に踏み切る社が増えている。利用者の利便性低下は否めないが、事業者は持続可能な公共交通機関として住民の足を支え続けるため、経営改善の成果を上げてほしい。
 JR九州は消費増税への対応を除き29年ぶりの運賃改定だ。平均15%の引き上げで、初乗り普通は30円増の200円になり、鹿児島中央-伊集院は70円増の450円となる。新幹線指定席も鹿児島中央-博多は1310円上がって1万1950円になる。
 年間168億円と見込む増収分は、鉄道網維持のための設備投資や災害対策、社員の待遇改善に充当すると説明している。肥薩線をはじめ、九州は近年、水害や台風の被害が目立つ。備えを万全にし、迅速に復旧に取り組めれば沿線住民の安心につながるはずだ。
 南国交通は路線バスを平均6.7%引き上げる。鹿児島市中心部の初乗りは30円増の230円、北薩、姶良方面は40円増の200円となる。2023年12月に28年ぶり(消費増税時除く)に値上げした際は、増収分を原資に運転手の賃上げを実施した。
 厚生労働省の調査から、21年のバス運転手の平均年齢は53歳で全産業より10歳ほど高く、年収404万円は85万円低い現状が分かる。今回の値上げも確実な待遇改善につなげ、若手からも注目される業界に近づけたい。
 県本土と離島を結ぶ定期航路も値上げの例外ではない。種子・屋久航路の高速船のうち、鹿児島-種子島は2段階でのアップとなる。4月15日から運賃本体を200円増の1万500円とした上で、5月から燃油価格上昇分を運賃に転嫁する調整金も上げる。種子島便は片道1万1000円になる。島民割引運賃は据え置くよう調整している。
 鹿児島-屋久島は、利用客数が新型コロナウイルス感染拡大前に戻っていない。運賃改定はせず、調整金だけ適用する方針だ。
 運航会社は増収分を船舶の老朽化対策に充てると説明している。1989年の航路開設以降、島民に浸透してきたが、外海を高速運航する船体への負担は小さくない。建造から40年超の船もあり、更新の具体策が待たれる。
 公共交通機関の大半が赤字とされ、値上げで一気に黒字転換するわけでもあるまい。適切な料金を探りつつ、いつでも安心して乗れる環境整備を目指してもらいたい。
 欧米では国や行政から公金が投入される例が多い。必要な時に十分な公的投資ができるよう、公を中心とした仕組みづくりも検討する必要がある。

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