一般会計の歳出(支出)総額115兆円超の2025年度予算が成立した。石破政権は、今国会のヤマ場の一つを乗り越えたと言える。
衆院で修正した政府提出の予算案を、参院が再修正。さらに衆院の同意を得て成立というのは現行憲法下で初めてのケースとなる。石破茂首相は「熟議の国会の成果だ」と述べた。
主導権を握れない与党。選挙を意識し、妥協を迫る野党。迷走も見られた手探りの「熟議」国会は後半に入る。格差社会が広がる中で、多様な国民の声を反映する政策実現のための論議を尽くしてほしい。
まず第一に、当初ベースで過去最大となる予算にもかかわらず、借金頼みの歳出膨張の問題点が先送りされたのは残念でならない。少数与党で野党の協力が不可欠という状況下で、審議は異例ずくめの経過をたどった。
通常国会召集日の1月24日に政府が提出。自民、公明両党と日本維新の会が合意した高校授業料無償化、所得税が生じる「年収103万円の壁」見直しに伴う修正を経て、3月4日に衆院を通過した。国会での当初予算案修正は1996年以来29年ぶりのことだ。
自公の修正案が衆院を通ったのは、維新の賛成を取り付けられたのが大きい。国民民主党は「年収の壁」の引き上げが不十分としてはねつけた。ただ、土壇場になって維新内部にも反対論が噴き出し、与党は説得に追われた。
自公の事前審査で了承が得られれば予算成立が確実視されたこれまでと違い、言論の府らしい緊張感がある。だが肝心な政策の中身に、広く国民の理解が得られているとは言えまい。
私立も対象に所得制限を外す高校無償化協議では、公立の定員割れ対策が十分練られたのだろうか。年収の壁について与党は、年収制限付きで160万円までと見直したが、根拠について納得いく説明がなされたのか。
妥協点を探る水面下の個別交渉を頭から否定はしないが、与野党には、国会での開かれた熟議こそ国民への説明責任を果たすと自覚してもらいたい。
今回の予算審議では、政権の「譲歩」の連発に、与党内からの不満も上がった。政権と与党の連携不足を見せつけたのが、参院に移ってからの高額療養費制度を巡る迷走だ。
自己負担上限額引き上げについて、衆院段階では立憲民主党などから全面凍結を迫られても一部見直しにとどめた石破首相。参院では患者団体や野党に加え自公両党の突き上げを受け、全面凍結へ異例の再修正に踏み込んだ。
首相の商品券配布問題で内閣支持率が急落する中、立民はこれから内閣不信任決議案提出の是非を慎重に見極める構えだ。企業・団体献金、選択的夫婦別姓制度の議論など後半国会の緊張度は一層高まりそうだ。