あしたは鹿児島県内のほとんどの小中学校、あさっては高校の入学式を控える。門出を迎える子どもたちは、登下校も安心できる環境の中で新生活を始めてほしいものである。きょうから「春の交通安全運動」が全国一斉にスタートする。
警察庁が今回の運動に合わせたまとめの統計によると、2020年からの5年間に全国で発生した歩行中の交通事故の死傷者数は、7歳が3436人と全年齢で最多だった。新学期がスタートする4月から6月までは増加する傾向があり、地域住民や保護者らの見守りが多い登校時に比べ、下校時は2倍に上った。
県は今回のスローガンに「ゆずり合い 愛があふれる 鹿児島路」を掲げる。子どもたちに限らず、新しい生活が始まる年度替わりのあわただしい時期だ。事故の当事者とならないように交通意識を高める契機としたい。
県警のまとめによると、県内の交通事故は死者数が1972年の254人、負傷者は2001年の1万6388人をピークに右肩下がりの傾向にある。前年よりは増えたものの昨年の死者数は53人。負傷者3180人と大幅に減少している。人口減少や各自動車メーカーが施すさまざまな安全システムに加え、長年、交通安全に取り組んできた各団体・個人の努力の成果に違いない。
とはいえ、かけがえのない家族や友人を突然奪われる交通事故の不幸がなくなったわけではない。先月24日には浜松市で、自転車で走行していた女子児童4人の列に高齢者が運転する軽トラックが突っ込み、2年生の子が亡くなり、その姉が一時意識不明の重体に陥る痛ましい事故が発生した。交通事故は被害者はもちろん、加害者も平穏な日常の暮らしを奪われる怖さを再認識する。
著しく高齢化が進む地域の多いわが県では、高齢者が絡む事故が目立つ特徴もある。県警のまとめでは、昨年の事故のうち、全体の約45%が65歳以上が関連するものだった。死者数も全体の6割に当たる32人を占めた。明け方や夕方以降は死亡事故に至るケースが多く、身体機能が衰える世代への心配りが事故防止につながることは数字の上からもうかがえる。
春の交通安全運動は15日まで。10日は「交通事故死ゼロを目指す日」と定める。全国の重点目標は(1)子どもをはじめとする歩行者が安全に通行できる環境確保(2)歩行者優先の意識の徹底とながら運転の根絶(3)自転車利用時のヘルメット着用と交通ルールの順守-などが掲げられる。県のスローガンにあるようにゆずり合いの精神を大切にして余裕のある運転に心がけ、交通ルールを守ることが不幸を招かない一歩だと肝に銘じたい。