社説

[山林火災続発]「脅威」自覚し備えたい

2025年4月12日 付

 山から立ち上る白煙や火柱。あっという間に住宅に迫る火の勢い。今年に入って、大規模な山林火災が相次ぐ。

 2月の岩手県大船渡市で発生した事例では1人が死亡し、住宅にも被害が出るなど平成以降の林野火災では国内最大規模の約2900ヘクタールを焼失した。災害列島と言われる日本で、これまで私たちが自覚してこなかった脅威に直面している。

 林野庁の資料によると山火事には季節的な特徴があり、7割が1~5月に集中する。中でも4月にピークを迎える。発火につながる活動に十分気をつけ、備えなければならない。

 大船渡市は今月7日、ようやく鎮火を宣言した。発生から40日もかかったことに驚く。12日目の鎮圧発表後も熱源や残り火が確認され、地元消防などが警戒や消火を続けて来た。山林火災の収束の難しさを突き付けた。

 今も200人近くの住民が避難生活を送る。政府は「局地激甚災害」に指定して復旧を支援するが、生活再建の具体的な道筋は示されていない。暮らしへの影響は長期化が必至とみられる。

 3月には岡山と愛媛でも発生。いずれも焼損面積は数百ヘクタールに広がった。各地の例から専門家が指摘するのは、平野とは違う山林特有の課題だ。

 燃えやすい落ち葉が積もっている。傾斜があり、木などの障害物が消防士の進入を妨げる。消火に使える水は限られる。

 さらに、乾燥した気候と強風が火勢を強めたと考えられるという。地表ではなく、木の上部に火が移った「樹冠火(じゅかんか)」の可能性も挙がっている。上部は風にあおられやすい。風向きの変化で火が急に燃え移れば消防士に危険が及びかねない厄介さがある。

 消防庁データで2023年の林野火災原因の最多はたき火(32%)、次が野焼きを含む火入れ(19%)。全体の約65%は人為的なものだ。春先に集中するのは、行楽や山菜採りで山に入る人が増え、農作業の野焼きが活発化して山林に飛び火するからだろう。

 鹿児島県内でも、1月に三島村硫黄島で起きた山林火災は鎮火まで約1週間を要した。身近な場所でいつ発生するか分からない。一人一人が「火の用心」を意識したい。

 地域社会で被害を抑えるには消防団の役割も重要だ。だが1955年に全国で194万人いた団員は2024年には74万7000人と減少。なり手の確保に官民で知恵を絞るべきだ。

 1月以降、米ロサンゼルスや韓国各地での山火事発生も報じられた。温暖化を背景に今後、より増えかねない。

 消防庁は大船渡市の延焼拡大の要因を分析し、効果的な消火方法を検討する有識者会議を設置。夏までに報告書をまとめる。今後の発生予防や防災対策に生かしてほしい。

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