JR肥薩線の八代-人吉間(52キロ)の鉄路による復旧が本決まりとなった。2020年の豪雨災害で八代-吉松間(87キロ)の運休が続く中、JR九州と熊本県は3月末、「川線」と呼ばれる八代-人吉間を33年度をめどに再開させる最終合意に至った。
復旧費229億円の9割を国・県が賄い、再開後の鉄道施設は県や沿線自治体が保有・管理する「上下分離方式」が採用される。こうした昨年4月の基本合意に加え、区間内に15ある駅のうち3駅を廃止することも明らかになった。
鹿児島にとっては、残る人吉-吉松間(35キロ)の「山線」の扱いが気がかりだ。
川線にめどが付き、JRの古宮洋二社長は山線について「必要な会議に入って地元と話をしていきたい」と述べた。熊本県知事も鹿児島、宮崎の両県知事に事務レベル協議を呼びかけた。「鉄道再開が前提」と主張してきた両県の担当部署は、沿線の声を丁寧にすくい、将来の地域づくりの構想を明確に描きながら交渉に臨んでほしい。
川線は被災前から年6億円前後の営業赤字で、JRは鉄路復旧に前向きではなかった。沿線は過疎高齢化が進むものの、住民の日常生活を支える足だ。熊本県や沿線自治体は、年7億円を超す施設維持費を引き受けるほか、職員の積極的な公務利用や駅周辺の2次交通充実による利用促進策を掲げ、JRの懸念払拭に努めてきた。
基本合意後の協議でさらに、被災前1日当たりの利用が0~1人だった3駅の廃止案を自治体側が示した。総額177億円の観光と日常利用の具体策もまとめた。収支改善や効率的運行を目指すJRの意向に沿ったのだろう。
「合意は通過点」(熊本県副知事)との言葉通り、復旧・復興への歩みを止めるわけにはいかない。
肥薩線は当初、八代-吉松間一体での復旧を論議するとみられていたが、実際は川線を優先して進められてきた。川線の被災箇所419件、復旧費229億円に対し、山線29件、6億円という被害規模を考えれば、難航が予想される区間の交渉を先行させた判断は理解できる。
とはいえ、山線の復旧が楽観できるわけではない。新型コロナウイルス禍前19年度の1キロ当たりの1日平均乗客数は106人で、川線の4分の1にとどまる。JR九州は、鉄道という大量輸送のメリットが生かせるほどの日常利用が見込めるかを重視している。
川線の会議にオブザーバー参加してきた鹿児島、宮崎両県は、JR側の基本姿勢も当然頭に入っている。復旧のために沿線や地元自治体は何をすればいいのか。鉄道に限らず、地域交通の将来像は県全体が直面している重要課題だ。県民の関心を高めたい。