社説

[熊本地震9年]情報見極めデマ防止を

2025年4月15日 付

 熊本地震の「前震」発生からきのうで9年になった。熊本、大分両県で犠牲者は278人に上る。
 当時利用者が急増していた交流サイト(SNS)が安否や被災状況の確認に威力を発揮し、“災害時の救世主”として存在感を示した。一方で、デマが救助や支援の現場を混乱させ、被災者を不安に陥れた。
 その後の災害でもSNSによる偽情報の拡散は続く。真偽を見極め、誤った情報を広げないために、注意点の頭文字をとった標語「だいふくあまい」を広げたい。
 熊本地震では、犠牲者の8割超223人が災害関連死だった。避難所環境の悪さや車中泊の「エコノミークラス症候群」リスクが浮き彫りになったが、大きく改善されたとは言い難い。
 震度7を2回記録した熊本県益城町には九州地域をカバーする国の災害備蓄拠点として、本年度中に段ボールベッド500個、簡易トイレ15個をはじめ、入浴や調理に使う資機材や間仕切りなどが配備される。南海トラフ巨大地震など大規模災害が起きた場合、被災自治体の要請を待たずに送る迅速な「プッシュ型」支援に期待したい。
 9年前の前震では発生直後に県外在住の男が「地震のせいで動物園からライオンが放たれた」とツイッター(現X)に写真付きで投稿し、瞬く間に2万人以上に転載された。熊本市動植物園には一晩で100件以上の電話が殺到し、男は逮捕された。災害に乗じてインターネット上にデマを流し逮捕されたのは全国初とされる。
 昨年の能登半島地震では、発生後24時間に日本語でXに投稿された救助要請の約1割がデマだったと国立研究開発法人情報通信研究機構が分析した。閲覧数を稼げば収入増につながる「アテンション・エコノミー」が背景にあると指摘する専門家もいる。
 共同通信の今年1、2月の調査によると、43都道府県がSNSで拡散される災害時のデマや誤情報による災害対応への影響を懸念している。28都府県は防止策(複数回答)に「拡散を規制する法規制」を選んだ。とはいえSNS運営事業者ら「上流」部分への対策には反発も根強く、実現は不透明だ。
 デマが広がりやすい災害時は、一人一人が情報の真偽を見極める心がけが必要となる。防災の専門家が勧めるのが「だいふくあまい」である。
 情報を受ける側は「誰が」「いつ」「複数の情報源があるか」を確かめる。発信側は「安全を確保」「間違った情報にならないか」「位置情報を活用」することを意識したい。
 リポストや「いいね」の多さは、情報の正しさとは一致しない。信頼できる情報源かどうかを見極める「だいふく」は、災害時に限らず日頃から訓練を重ねる必要がある。

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